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2006年8月31日 (木)

日本航空

朝日新聞の8月26日BEE”読み解く”に「問題多いJAL増資」という町田徹氏のレポートが載っていた。このレポートは「もはや、JALに資本市場を利用する資格があるとは思えない。」との文章で締めくくられており、非常に厳しい表現である。そこで、私なりに、日本航空について分析してみたのが以下です。どう思われますか?

(1)増資と株価

(株)日本航空は、6月28日に株主総会を開催。6月30日に取締役会で700百万株の公募増資及び50百万株のみずほ証券によるオーバーアロットメントによる売出しを決定し同日公表した。合計750百万株の新規発行は、発行済み株式1,982百万株(自己株式3百万の控除後)の35.4%に相当することから、株式の希釈化となり株価は6月28日の終値291円から7月25日は200円を切ったこともあり、最近は220円程度で推移している。

この増資については、7月18日の日本証券業協会の安東俊夫会長が定例記者会見で、「事前に株主に説明することができたのに、しなかったのは段取りが十分ではない。株主などに十分な説明がなされていない点が問題だ。」と発言したことが報道されている。又、日本航空は、この増資で2000億円の調達を計画したが、最終的な手取金額は1470億円であった。

増資結果、日本航空の株主資本は1189億円から2659億円へと2.2倍になった。

(2)日本航空の財政状態と業績

一時的な株価の上昇・下降はあっても、最終的に株価は企業の財政状態と業績(将来の見込みも含め)により決まってくるはずである。貸借対照表と損益計算書は最重要情報を提供してくれるのであり、これを見る必要がある。日本航空の第1四半期(06年6月末)の連結貸借対照表を下に掲げる。なお、全日本空輸の同じ第1四半期(06年6月末)の連結貸借対照表も掲げる。

Bs0606c_1

財務諸表は通常、数字が羅列された形式で見ることとなるが、全体像を把握するためには、この様なビジュアル・イラストレーションが私には解りやすい。全日空も同様で、有形固定資産の割合が大きい。全日空と比較して、日航で問題と思える点は、株主資本が少額であることです。総資産に対する割合では日航は5.6%。全日空は20.8%。これは、06年6月の状態であり、増資後の状態は、他の数字に変動がないとして日航の増資後の割合は11.8%となった。

日航は6月28日の株主総会における第1号議案が損失処理案の承認であり、その内容は、未処理損失1313億円をその他資本剰余金635億円と資本準備金678億円により一掃することであった。

現在の(株)日本航空は2002年10月に当時の日本航空(現在の日本航空インターナショナル)と日本エアーシステム(現在の日本航空ジャパン)の株式移転により設立されたホールディングカンパニーである。日航グループが航空輸送事業を行うに当たり、有形固定資産である航空機調達を有利に行うにために、健全な財務体質を保持し安いコストでの資金調達を目指すのは当然のことと言える。

そう考えれば、増資はごく自然な流れであったと思う。しかし、株主総会の2日後の決定であり、株主総会で説明はされなかったのであろうから、会社の所有者である株主に対し折角の機会である株主総会に対し説明を行うべきであったと言える。

(3)日本航空の企業成績

企業成績の一番の基準は、やはり損益計算書であると考える。第1四半期(06年6月末)の損益計算書は発表されているが、1年をカバーする日航と全日空の06年3月期の連結損益計算書を以下に掲げる。

Incm0603_3

日航の問題は事業収益2兆1994億円に対して純損失472億円を出していることである。有価証券報告書(有証報)のセグメント情報によれば、航空運送事業が営業損益の段階で434億円の損失である。全日空は連結純利益267億円であり、純利益率2.0%である。これに対し日航は損失率2.1%となる。

重要なことは、黒字転換が達成可能かである。この点に関しては、航空輸送事業のコスト構造が一般製造業とは異なり固定費の割合が極めて大きく、極端に言えば、変動費は販売手数料が大部分とも言える。そこで、日航が8月7日、全日空が8月15日に発表している4月~6月の3ヶ月間の輸送実績を比較することとする。

2006年4月~6月の旅客輸送実績

(上段 単位:千人、下段 利用率)

  国内線 国際線 合計
日航 10,369 3,192 13,561
60.4% 69.9%  
全日空 10,897 1,045 11,942
62.9% 75.9%  

日航と全日空の旅客輸送実績を比べてみると、利用率で日航が低いことから、改善できる余地があると思える。日航の2005年度の航空輸送事業の収入が1兆6000億円であり、1%は160億円に相当する。収入の10%は変動費としてコストとなり、固定費は変動がないことから、90%が利益増に結びつくとすれば、1%の航空輸送事業の収入増は、144億円の利益増をもたらすと考えられる。そうであれば、472億円の連結損失の黒字化は不可能とは思えない。現状、第1四半期(06年6月末終了)の日航の連結決算の結果が、268億円の損失であり、前期第1四半期の384億円の損失より小さくなってはいるものの、これでよいと言えるレベルではない。利用率の向上は必要と思う。

(4)その他の町田徹氏の指摘について

- 退職金の積み立て不足2731億円

06年3月期の有証報によれば日航の退職給付債務は9062億円。これに対し、社外に積み立てた年金資産が5120億円で1398億円の退職給付引当金がある。従い、差額の2544億円が未処理・未認識の差異となる。この会計処理は、退職給付に係わる会計基準(企業会計基準第3号)に従っていることから、疑惑と言うと言い過ぎであり、誤解を招くと考える。

全日空は、退職給付債務2699億円、年金資産1109億円、退職給付引当金1074億円であり、未処理・未認識の金額は516億円である。日航は、未処理・未認識の金額が大きいことから、その費用認識処理のために今後の退職給付費用が負担となるのは確かである。ちなみに、06年3月期での日航の退職給付費用は561億円であったのに対し、全日空は212億円であった。

- 航空機などのリース料(6127億円)の簿外処理

6127億円という数字はリース料ではなく、リース資産又はリース債務額であると思うが、これも誤解を招く表現と考える。即ち、リース取引に係わる会計基準三1(2)において、所有権が移転しないファイナンス・リース取引については、有形固定資産とリース債務を認識するのではなく、リース料を賃借料として費用処理することが認められている。同基準において、賃借処理した場合には、有形固定資産とリース債務の残高や支払利息金額を参考として財務諸表へ注記することが求められている。この注記は行われており、問題視する必要はないと考える。

企業会計基準委員会は7月5日に新しいリース取引に係わる会計基準の試案を発表した。この試案は、ファイナンス・リースの場合の賃貸処理を認めないものである。この方向に進むと予想されるが、適用時期は未定である。有形固定資産とリース債務として認識した場合の影響については、06年3月期末の数字で日航の場合は資産3922億円、負債3993億円で特別損失71億円を認識することとなる。なお、全日空の場合は、資産1088、負債1140で特別損失52億円となる。

現状不適正と言える処理ではなく又新基準となった場合の影響が特に重大とまで言えないと思う。

- 繰延税金資産の資産性

06年6月末の連結貸借対照表で日航は繰延税金資産として流動資産で26億円、固定資産で483億円を計上している。2001年4月から青色欠損金の持ち越しは7年になったこともあり、最近の業績が損失であることを理由に繰延税金資産の資産性を疑うことは行き過ぎと考える。日航の財務諸表に新日本監査法人が適正意見の監査報告書を出していることから、繰延税金の資産性については疑いを持たないことでよいと思う。監査報告書にまで疑いを持つと、我々の市場そのものへの不安となるからであり、最後の砦であるから。

- インサイダー取引疑惑

町田徹氏は「増資発表前日の後場、わずか半日で1120万株と急増」と言っている。日経スマートチャートで見ると、売買高は

株主総会の6月28日8,237千株、29日14,498株、発表があった30日14,956千株、7月3日52,1617千株、4日24,098千株・・・といった具合である。

29日の取引高14,498株は、前後の取引高との比較でインサイダ-取引が関与しているとまでの量ではないと私は感じる。信用取引売り残は、29日が11,959千株で、30日に22,433千株となっている。もし、インサイダー取引が行われているとすれば、巧妙な手口でされていると思う。例えば、3月、4月頃に売却してしまうのである。(2)の私の分析によれば、遅かれ早かれ大株数の増資が必至である。増資による株価下落が予想できるなら、下落前でしかも疑いをかけられる心配の少ない時期を選ぶと思うからである。いずれにせよ、然るべき機関に結論は任せてよいと考える。

(5)今後に向けて

色々書いていると随分長くなってしまった。思うことは、日本のナショナル・フラッグと呼ばれた航空会社である。時代の変化と共にその対応は変えて行かざるを得ないが、多くの人々にサポートされる会社であり続けて欲しい。

書いている間に思いついたことも幾つかある。続編として、もう少し書こうと思います。(この種の分析はもうこれで止めたいと思いますが)

日航、全日空の(2)で示した第1四半期(06年6月末)の貸借対照表は会社法と貸借対照表の部の表示に関する会計基準(企業会計基準第5号)によっている。参考までに従来の資本の部と異なっている主要点を続きを読むに記載しておきます。

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.日航及び全日空は、四半期報告書を「会社法」及び「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(企業会計基準第5号)に基づき作成している。本分析においても、会社法及び新基準を下に行うこととした。

.会社法及び新基準の適用の結果、従来の資本の部は純資産の部となるが、厳密には、以下の点が従来の資本の部とは異なる。

 新株予約権:従来は権利行使がなされなかった場合に、営業外利益として計上することとなることを重視して、流動負債としていた。新基準では、将来の潜在株主との取引の結果であることを重視して、株主資本以外のその他純資産に含めている。

 繰延ヘッジ損益:従来は資産又は負債として計上していた。新基準では、株主資本以外のその他純資産に含めている。

 少数株主持分:従来は負債の部と資本の部の中間の独立項目であった。新基準では、株主資本以外のその他純資産に含めている。

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