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2006年9月 5日 (火)

日本航空(その3)-ジャパレバ

ジャパレバとは何であるか。2006年6月30日提出の日航の有価証券報告書ページ29/128に次のような記載があります。

当社グループは、航空機の調達手段として、日本型レバレッジド・リースを活用していますが、・・・現状の仕組みが、2007年4月1日以降に組成される案件については、従来と同じ条件では利用できなくなる予定であり、・・・・当社グループの財政状態及び業績に悪影響を与える可能性があります。

上記の日本型レバレッジド・リースがジャパレバです。日航にしか関係しないのかというと、当然ジャパレバを利用する全ての会社(全日空も含め)に関係するのですが、金額的には多分日航が一番大きいかもしれないと思います。そこで、今回はこのジャパレバとは何であるかを私なりに書いてみます。

(1)レバレージド・レース(Leveraged Lease)

「てこ」のリースです。ジミー・カーターさんが米国大統領であった頃、米国には、その当時投資減税(Investment Tax Credit)として設備投資を行うと投資額の10%が税額控除(Tax Credit)が取れるという税制がありました。100投資して、減価償却を実施する以外に10税金が減額されるのです。日本の今の税制でも情報基盤強化設備等を取得した場合の法人税額の特別控除なんてのがありますが、その年の法人税の20%までという制限があります。米国のその当時の投資減税は法人税の100%まで許容されたのです。

設備投資を行う会社は、必ずしも利益を計上し多額の納税をしている企業とは限りません。そこで、リースの仕組みを利用するのです。設備投資は名目上は多額納税企業が行って、これを実際に使用する企業にリース賃貸をするのです。もし、70%を借入金で調達することとして、30%の現金を用意して投資すれば、税金で直ぐに10%投資回収が計れることとなるのです。リース料は資金コストが大きなウェイトを占めます。資金コストは回収リスクとの見合いですが、税引き前で考える必要はなく、税引き後のキャッシュフローで考えることが合理的と言えます。保証等も組み合わせれば、最適な投資家、資金提供者・・・で安いリース料のリースを仕組める可能性があります。

これがレバレッジド・リースです。レーガン大統領の税制改革で米国の投資減税を利用したレバレッジド・リースは無くなりましたが、利用できる制度があれば、同様にバレッジド・リースは可能です。航空機の場合は、国境をこえて出稼ぎも可能ですから、世界で有利なレバレッジド・リースが仕組めるところがあれば、そこで出現する可能性があると思います。いずれにせよ、レバレッジド・リースは通常は税制度を巧みに利用して仕上がっているはずです。

(2)ジャパレバとは

日本で所得税を多く払っている人達に航空機の所有者となって貰うのです。利用するのは次の2つの個人所得税の制度です。

A 不動産所得の損益通算(航空機の賃貸収入は不動産所得で、不動産所得の損失は他の各種所得の金額のプラスを減額することが出来ます。従って、所得税が減る。なお、他の所得と相殺(損益通算)が可能なのは、不動産所得、事業所得、山林所得と譲渡所得のみです。(所得税法69条)

B 航空機を売却した際は、売却価格と未償却簿価残高との差額が利益となり、課税所得になるのですが、5年以上保有していれば50%は無税なのです。(所得税法22条②二)

日本では航空機の減価償却期間が最大離陸重量130トン超は10年で、それより軽い場合は8年です。これも、節税に役に立つのです、即ち、リース賃貸料と売却収入の合計総額が同じであれば、売却による利益(所得税では譲渡所得と呼びますが)が大きいほど、50%無税となる金額が大きくなるからです。

それと、不動産所得も賃貸収入(リース料)は毎年一定ですが、借入金の利息は返済が進むに連れ残高が小さくなることから、期間全体を見越してリース料を決めることになるので、最初のうち不動産所得は赤字で節税効果を生み、後になれば利息が小さくなった分だけ収入も大きいという構造です。ここ数年は、儲かっている。だから節税だ。その見返りに将来キャッシュが入ってくるなら、これはいい投資だとなるわけです。

なお、所有者は一人では巨額すぎるので民法上の組合契約を締結し、組合がその所有者となるが、全ての事務や手続きはリース会社が設立した個別案件毎の会社が執り行っています。組合の場合は、組合員が事業行為を行っているとして、組合ではなく各組合員が税務申告を行い、納税義務者となります。

投資に賃貸マンションを買いませんかという勧誘と似ていますが、実ははるかに有利なのです。何故なら、

- 中古航空機は必ず売れます。(金額はマーケット次第ですが)

- リースの相手先は大手の航空会社等です。賃貸収入の回収は確実と言えます。

- 土地・建物は税制が異なるので、航空機ほどメリットはない。(同じ不動産所得、譲渡所得の分類ですが、土地政策との関係もあり、損益通算の制限や所有期間10年とかが土地・建物にはあります。)

(3)国税庁の反撃

(1)で書いた米国の投資減税の場合は、景気対策という政策が絡んでいます。一方、ジャパレバは景気刺激になるのかならないのかよく判らないものです。メーカは米国又はヨーロッパ。でも、日本に下請け企業がいる。いずれにせよ、ジャパレバは政策としての税制を利用しているのではなく、税制の隙間を縫っている感じです。

ということからでしょうか、税務署は、民法上の組合契約という通常では使われない手段を利用した租税回避であり、外見上は組合契約の形式をとってはいるものの、その実体は投資による利益配当契約であり賃貸の場合の損失はゼロとみなすこととなっている雑所得であるとして各所有者(組合委員)に修正申告を要求し、応じなかった人には更正処分を行い、更に裁判に訴えたのです。(参考2004年3月読売新聞記事

そして、最初の名古屋地裁の判決では、税務署が敗訴。その結果、税務署が控訴したため名古屋高裁での争いとなったが、2005年10月27日(判決文はここ)控訴棄却となり、税務署は期限までに上訴しなかったことから敗訴が確定した。更正処分を争っている納税者は、国税不服審判所の段階で62件、地方裁判所で71件、高裁は他に2件あったそうです。税務当局は、同じ事実関係にある事案についても、課税処分の公平性の見地から処分を見直し、税務署長による減額更正が行われるたと理解します。

実は、2005年2月4日に平成17年度税制改正(「所得税法等の一部を改正する法律案」)が閣議決定され、同日、国会に提出されたのですが、この改正案にはジャパレバの節税を封じる条項があったのです。それが、租税特別措置法41条の4の2で、続きを読むに条項を掲げています。これを読むと解りますが、平成18年からの適用です。

内容は、(2)Aで書いた航空機賃貸の不動産所得に関する赤字部分が認められなくなったのです。41条の4の2で言う自ら執行する組合員とは、リース会社の子会社位だろうと私は思うのです。

(4)現状

現在は、(2)Aによる赤字の結果の節税はなくなりました。しかし、(2)Bの50%無税は続いているはずです。ジャパレバは最初は赤字節税で、最後は50%無税ですから、既に赤字期間が終わっている人達には措置法41条の4の2は影響がないと思います。赤字期間がほとんど終わっている人は、影響が小さいというところと思います。

但し、新規案件は節税メリットが一つ消えるので、ジャパレバのリース料はその分高くなると思います。

さて、日航の有価証券報告書が何故2007年4月1日以降に組成される案件と書いているのかですが、法人が組合員となることもあるのです。法人の場合は、所得は全て一本で個別の赤字は他の黒字と常に相殺されます。但し、50%無税の制度はありません。しかし、リースの最初の頃が赤字で最後が利益でとなると、税も全ての期間を合計すれば同じでも、最初が少なく後が多いと割引計算で現在価値に引き戻すと後で払う方がメリットがあります。法人の場合の組合員は、この計算です。

平成17年度税制改正は租税特別措置法67条の12(組合事業に係る損失がある場合の課税の特例)という条項で法人の場合の組合事業に係る組合損失超過額の損金不算入を導入したのです。2005年4月1日以降締結の契約から適用なのですが、航空法第100条第1項の許可に係る事業の用に供する航空機の賃貸に係るものは2007年4月1日以降締結の契約からなのです。

(5)税の公平

税の公平と言う議論は、難しい側面を持っていることが多いのです。例えば、ジャパレバでも組合員は節税を考慮して投資をしたが、一方でリターンは通常より低かったはずです。又、リース期間終了時に売却と言っても、時価です。その時に、低燃費の航空機が現れていたら高燃費機は価格が下がっています。結局は、そんなリスクも加味した総合の損得勘定で動いているはずです。

しかし、参考として掲げた(3)の2004年3月読売新聞記事によれば安いリース料のメリットを受けた例としてあがっているのは英国の航空会社のようです。この場合に、日本の税が安くなった分、英国の航空会社が利益を出して、英国で納付する税が増えているのだったら、日本の制度はバカみたいと思えます。ジャパレバに関する税制改正は、日本の政府財政が赤字であることを考えれば、妥当なのかも知れません。

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租税特別措置法
第41条の4の2 特定組合員(組合契約を締結している組合員(これに類する者で政令で定めるものを含む。以下この項において同じ。)のうち、組合事業に係る重要な財産の処分若しくは譲受け又は組合事業に係る多額の借財に関する業務の執行の決定に関与し、かつ、当該業務のうち契約を締結するための交渉その他の重要な部分を自ら執行する組合員以外のものをいう。)に該当する個人が、平成18年以後の各年において、組合事業から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上当該組合事業による不動産所得の損失の金額として政令で定める金額があるときは、当該損失の金額に相当する金額は、所得税法第26条第2項及び第69条第1項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかつたものとみなす。
 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
  組合契約: 民法第667条第1項に規定する組合契約及び投資事業有限責任組合契約に関する法律第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約並びに外国におけるこれらに類する契約(政令で定めるものを含む。)をいう。
  組合事業: 各組合契約に基づいて営まれる事業をいう。
3 前項に定めるもののほか、第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

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