消費者金融業者の引当金計上に関して
1) ニュース
ご存じの通り、経済面のニュースで消費者金融業者が引当金計上を行い、各社の2007年3月期中間決算は赤字になるとのニュースがありました。下に掲げておきます。
日経-消費者金融3社、1000億円超す赤字に
日経-武富士の9月中間、最終赤字1442億円
朝日-消費者金融3社、大幅赤字転落へ 利息返還に備え引当金
産経-アコム、アイフルが巨額赤字に転落へ
2) 各社の発表
各社は下記の発表を行っており、これが1)の報道の情報源です。
アイフル10月30日-中間期業績予想の修正に関するお知らせ
アコム10月30日-平成19 年3月期中間業績予想の修正に関するお知らせ
プロミス10月30日-特別損失の計上ならびに業績予想の修正に関するお知らせ
三洋信販10月30日-平成19 年3 月期 中間業績予想の修正に関するお知らせ
武富士10月31日-業績予想の修正に関するお知らせ
なお、大手の消費者金融としては、上記の5社以外にCFJ(アイク、ディック、ユニマットレディス)とGEコンシューマー・ファイナンス(ほのぼのレイク)がありますが、CFJは米Citigroupの子会社であり、GEコンシューマー・ファイナンスはの米GEの子会社であるため、個別企業としての財務諸表は公表していません。
3) 引当金の計上→グレーゾーン金利の撤廃?
引当金とは、会計を学んだ人なら誰でも知っている「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」です。
財務諸表は会社法第435条にも規定されているとおり、各会社がその作成義務を負っています。では、どの様な判断で各社が今回引当金を計上したかです。別の表現で言うと、各社は「発生の可能性が高く」とあることから、グレイゾーン金利は借りている人達に返還しなくてはいけないと判断したのかどうかです。
答えは、2)の各社発表にあるのであるが、「平成18 年10 月13 日付の日本公認会計士協会による「消費者金融会社等の利息返還請求による損失に係る引当金の計上に関する監査上の取扱い」の公表内容に基づき各社は計上したと言っています。即ち、各社が「発生の可能性が高い」とそれぞれの判断で引当金を計上したと言うよりは、この消費者金融会社等の利息返還請求による損失に係る引当金の計上に関する監査上の取扱いに従わないと無条件の監査報告書が入手できないから引当金を計上したと私は理解します。
本来の会計の原則に従えば、過去の貸倒実績や利息返還実績等により合理的に見積り引当金を計上するのです。実は、この3月期については各社とも、合理的な見積による計上を行っていたのです。例えば、アイフルの2006年3月末の財務諸表には次の注記を行っています。
当社は利息返還金につき支出時の費用として処理しておりましたが、みなし弁済規定の適用の厳格化等により財務諸表に与える影響が増したため、日本公認会計士協会審理情報[No.24]「「貸金業の規制等に関する法律」のみなし弁済規定の適用に係る最高裁判決を踏まえた消費者金融会社等における監査上の留意事項について(平成18年3月15日 日本公認会計士協会)」に従い、期末日現在において見込まれる将来の利息返還金相当額を「利息返還損失引当金」として計上することといたしました。
8月22日のエントリー「サラ金ビジネス」で書いたように最高裁が利息制限法を超える金利を否定したのは本年1月だったのです。現在の動きは、日経-貸金業法案を閣議決定、グレーゾーン金利廃止です。でも、施行予定は2年先なので、3月末と9月末で債権・債務は何も変わっていないのです。だから、今回引当金を計上したから、サラ金業者はグレーゾーン利息の返還請求に簡単に応じるかというと、「とんでもない」であり、「従来と同じ」で返還請求を配達証明郵便で送付し、裁判になる直前で和解を求めてこられたりと言うこれまでと同じ戦いが続くと私は思います。
4) 各社比較
2006年3月末の財務諸表(連結)と今回の発表を下として各社の比較を行ったのが、次の表です。
アコム | アイフル | プロミス | 三洋信販 | 武富士 | |
営業貸付金・・・・・ (A) | 1,703,172 | 2,124,017 | 1,580,982 | 483,511 | 1,540,046 |
割賦売掛金 | 131,456 | 209,581 | 10,530 | 40,379 | 494 |
営業貸付金利息 | 389,387 | 491,357 | 360,588 | 128,591 | 341,463 |
平均貸付利率 | 22.9% | 23.1% | 22.8% | 26.6% | 22.2% |
2006年3月末利息返還損失引当金 | 23,700 | 21,074 | 23,970 | 4,250 | 22,500 |
2006年3月末引当金の営業貸付金に対する比率 | 1.4% | 1.0% | 1.5% | 0.9% | 1.5% |
今回発表の利息返還損失引当金繰入額 ・・・・・・(B) | 317,000 | 200,366 | 174,900 | 51,300 | 284,600 |
今回発表の引当金の営業貸付金に対する比率 | 18.6% | 9.4% | 11.1% | 10.6% | 18.5% |
分配可能額(参考)・・・・・・ (C) | 751,674 | 447,173 | 537,413 | 173,377 | 869,358 |
参考 (C - B)/A | 25.5% | 11.6% | 22.9% | 25.2% | 38.0% |
平均貸付金利率は2006年3月末の営業貸付金残高とその前1年間の利息額から計算しましたが、利息制限法の上限利率(15%~20%)より高い利率です。
2006年3月末に既に引当金を計上していた額と今回の引当金繰入額を合計の2006年3月末の営業貸付金残高に対する割合は、アイフル、プロミス、三洋信販の3社が10.4%~12.6%であり、グレーゾーン利息全額を利息返還損失引当金として計上したものと思われます。アコムと武富士については、アコムが「貸付金元本放棄額を合わせ」と言っており、借り換え等で古い利息が新規借入の元本に組み込まれたものについても返還を考慮したものと思います。武富士も同じと思います。又、過去に支払を受けたグレーゾーン金利の返還をどのように見積もったのかその見積方法にも多少違いがあるかも知れません。
アイフル、プロミス、三洋信販の3社も基本的には同様で違いはないと思うのですが、比率に差があるのは、もしかすると会社の財務体力の差かも知れません。表の分配可能額(配当可能額ですが)は個別財務諸表から私が計算した金額ですが、この分配可能額から今回の引当金繰入額を差し引いた残額の営業貸付金残高に対する比率を見ると3社は、これ以上引当金を増やすと財務状態が苦しくなるのが分かります。これが3社の今回の引当金率の低い理由かも知れません。
5) 今後の見通し
今回の引当金の計上の結果、これからのサラ金・消費者金融ビジネスはどうなるのだろうと思いました。即ち、貸付金を計上する際に、最初からグレーゾーン金利について引当金を計上するのだろうかです。会計からすればバカみたいです。でも、貸付金は契約に従った債権金額で計上すべきであり、一方、同種の貸付金については同じ基準で引当金を計上しなければなりません。そうであれば、最初からグレーゾーン金利のない利息制限法内での利率で貸し付けた方がよっぽでスッキリします。
引当金を計上するなら利息制限法内での利率で貸し付けたのと企業利益は同じである。従って、グレーゾーン金利解消の法律が制定される前に、日本公認会計士協会の監査上の取扱報告が法律制定と同一効果を2年以上も前に先取りしてしまったと言うことでしょうか?これ、「まさか」という頭をひねる問題です。
いずれにせよ、様子を見るしか方法はないのでしょうが、これを契機にヤミ金融が横行しないように規制当局は見守って欲しいと思うし、貸し渋りで一時的に資金が必要な人に資金供給がなされない事態にならないようにして欲しいと思います。
6) 蛇足
10月16日のバングラデシュのグラミン銀行で生命保険の必要性を書いたのですが、すでに生命保険の扱いを中止してしまった会社があるのですね。私が、ウェブで確認した所では、
アコム、アイフル、プロミス、三洋信販、武富士がそれぞれ取扱中止を言っています。
マスコミに死に追い込む過酷な取立と批判された結果だと思うのですが、私は本当に止めてしまってよいのだろうかと未だ思っています。過酷な取立が、生命保険の扱い中止で終わるわけではなく、債務者が死亡して残った債務を相続人である遺族が相続して払い続けることは残酷だと思うのです。相続放棄という方法がありますが、相続放棄をするには相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に手続きをしなければなりません。相続を知った日とは通常は死亡の日ですから、下手をすればアッという間にやってきます。手続きをしなければ、債務を継承します。
遺族にとっての地獄にならなければよいがと思います。
浅学ながら、他の産科医が書き込みなさらないのでXXXさんに。
まず子癇発作というのは血管が締まって脳に血が行かなくなる状態です。当然脳以外の所でも血管が締まっていますから胎盤や腎臓、肝臓でも血流が極端に落ちます。従って一時的とはいえ脳全体が酸欠になっている上、さらに腎不全と肝不全がこれまた一時的とはいえ起こっているとお考えください。そうなれば脳浮腫(脳がむくむ)も起きますし、胎児の状態も悪くなります。けいれんが起きていれば呼吸状態も悪いでしょうから、胎児の状態はさらに悪いでしょう。母体がそのまま死んでしまうことだってあります。前にも書きましたがこれくらい重症だと大体1割死亡。ここまでで重症の子癇発作がどんな状態かイメージできたでしょうか?
で、医者の間では知られた事実ですが、脳梗塞の後血流が再開すると、そこで脳出血が起こることもあります。今回はこれではないかと推定しているわけです。
さらにさらに子癇発作というのは妊娠中毒症の妊婦に起きやすいわけですが、比較的軽症中毒症でも血が固まりやすくなって、ちょっとしたきっかけで体内に血栓が起きてしまいます。ましてや子癇発作時は、全身に微少な血栓が飛び散ったあげく、かえって止血機構が破綻して出血が止まらなくなるDICという状態も起きやすくなります。こうなったらもう多臓器不全から死亡へまっしぐらです。妊娠中毒症や子癇発作がどんなに危険なものか、おわかりいただけたでしょうか。私自身も遭遇経験はないので、ちょっと怖さを大げさに書いているかもしれませんが、間違っていたらどなたか修正してください。
というわけで、意識の戻らない重症の子癇発作患者を受け入れるというのは、並ではない覚悟が必要です。胎児も死ぬかもしれず、母体も死ぬかもしれない。しかも死ねばバッシングが待っている。おまけに前に書いたように、検察は「万全の体制でやれないところで危険な症例を引き受けるべきではない」と福島県立大野病院の事件で医師を逮捕したのですから、NICU,ICU,新生児専門小児科医、麻酔医、産科医数人ずつと、脳出血が明らかになった時点でさらに少なくとも脳外科医2名を直ちに用意できなければ受け入れ不能と回答するしかありません。野戦病院じゃあるまいし、「ベッドがなくても受け入れろ」という言葉の非現実性がお解りでしょう。
最後に外科医が脳をいじるのは全然無理。どこを切れば脳にダメージを極力与えずに血腫を取り除けるかなんて、脳外科医以外にはできない判断。それにこんな修羅場の帝王切開を専門医でもない外科医がやったら大変ですよ。「やったこともない手術をやった!そのため患者が死んだのだ!逮捕だ!」となるのが分かり切っています。
(3) 脳内出血
脳内出血を子癇と誤診したから、妊婦が死亡したなんて、そんな報道されているほど単純ではないことを多くの方は理解しておられると思いますが、この妊婦の脳内出血とはどのような状態であったのかm3という医師のブログ・掲示板に転載可として書かれていたというので、下記に掲げます。
今日、患者さんの死亡原因の診断を教えてもらいました。右脳混合型基底核出血で、手術としては脳室ドレナージが行われたようですが、かなり大きな出血だったため、回復され なかったそうです。
脳内出血の原因は、年齢から考えて、aneurysm(動脈瘤)があったんだろうか。32歳といえば、aneurysm破裂の好発年齢ですよね。年齢から考えるとAVM(動静脈奇形)は、否定的で すし、予後は比較的いいはずですから。aneurysmは分娩時におこる頻度はまれだったな。そういえば妊娠20週まではAVMが多くって、30週から40週まではaneurysmが多いという文献もあったっけ。PUBMEDでももう一度調べてみます。
不幸にも亡くなられた方の既往のepisodeに何かなかったのかなと思いました。()は私の注です。
大淀病院でこの患者の脳内出血に対処可能であったかに付いては、「元検弁護士のつぶやき」の中で、転載可として脳外科医(留学中)さんが書かれていますので、下記に掲載します。
脳室体外ドレナージだけであったのならば、大淀病院で可能です。
ただし、臨月の妊婦でなければ。
決断してから、準備、手術、回路の設置終了までは、急げば30分程度の処置ですが、この場合片方だけでなく、両側脳室をドレナージした方がベターなので、さらに15分ほど追加、さらに出血で脳室がシフトしていて一度で穿刺できない可能性なども考えると、処置のために「最低」1時間は予測しなければなりません。
そしてドレナージの最中に脳圧の急激な変化が、胎児の心拍数低下などの危機的状況を導く可能性なども考えれば、この処置は手術室で帝王切開と同時に行うべきです。
麻酔科も、NICUもない病院で、このような危険な処置は行うべきではありません。
さらに、いつ搬送先が決まるかもわからない状況です。
もし、CTで出血がわかったとしても、「母子の管理が十分に出来る施設へ一刻も早く搬送して、搬送先の手術室で処置を行ってください」というのが、正しい判断だと確信します。
また、視床から被殻を巻き込む大型の血腫で、かつ脳室穿破を伴っているタイプの脳内出血であれば、CTを撮れば見逃すことはありませんが、たとえ手術を行ったとしても予後は不良です。
出血の原因としては、高血圧性のものが第一に考えられます。若年者なので、脳動静脈奇形も鑑別しなければなりません。動脈瘤破裂の好発年齢は50代で、部位的にも考えにくいと思います。ただし、血腫で何が何だかわからなくなっていると思います。
いつかは起こりえる、そして起こるべくして起きた事故ですが、学ぶことはとても多いと思います。
問題点は、たくさん見えてきました。
少なくとも、このブログをご覧になられている方には、この産婦人科医を責めることは、何も生み出さないということを認識していただけるのではないかと思います。
そしてこれから生まれる命と母になる女性のためにも、今後どのような体制を整えていかなければならないかを考える必要があります。
それが、亡くなられた方と、残されたご家族に報いる、唯一の方法であると思います。
(追記)
たまたま見つけた文章です。
脳室ドレナージは要するに脳圧が上がらないように、水抜きをするということだから、それで 患者の家族が満足できるレベルの「救命ができた」とは言えない。てか、ふつうの人は救命=ふつうに生活できると思いこんでいるが、あくまでも救命=寝たきりであろうがなんだろうが「生きている」状態のことだ。