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2006年10月31日 (火)

消費者金融業者の引当金計上に関して

1) ニュース

ご存じの通り、経済面のニュースで消費者金融業者が引当金計上を行い、各社の2007年3月期中間決算は赤字になるとのニュースがありました。下に掲げておきます。

日経-消費者金融3社、1000億円超す赤字に
日経-武富士の9月中間、最終赤字1442億円
朝日-消費者金融3社、大幅赤字転落へ 利息返還に備え引当金
産経-アコム、アイフルが巨額赤字に転落へ

2) 各社の発表

各社は下記の発表を行っており、これが1)の報道の情報源です。

アイフル10月30日-中間期業績予想の修正に関するお知らせ
アコム10月30日-平成19 年3月期中間業績予想の修正に関するお知らせ
プロミス10月30日-特別損失の計上ならびに業績予想の修正に関するお知らせ
三洋信販10月30日-平成19 年3 月期 中間業績予想の修正に関するお知らせ
武富士10月31日-業績予想の修正に関するお知らせ

なお、大手の消費者金融としては、上記の5社以外にCFJ(アイク、ディック、ユニマットレディス)とGEコンシューマー・ファイナンス(ほのぼのレイク)がありますが、CFJは米Citigroupの子会社であり、GEコンシューマー・ファイナンスはの米GEの子会社であるため、個別企業としての財務諸表は公表していません。

3) 引当金の計上→グレーゾーン金利の撤廃?

引当金とは、会計を学んだ人なら誰でも知っている「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」です。

財務諸表は会社法第435条にも規定されているとおり、各会社がその作成義務を負っています。では、どの様な判断で各社が今回引当金を計上したかです。別の表現で言うと、各社は「発生の可能性が高くとあることから、グレイゾーン金利は借りている人達に返還しなくてはいけないと判断したのかどうかです。

答えは、2)の各社発表にあるのであるが、「平成18 年10 月13 日付の日本公認会計士協会による「消費者金融会社等の利息返還請求による損失に係る引当金の計上に関する監査上の取扱い」の公表内容に基づき各社は計上したと言っています。即ち、各社が「発生の可能性が高いとそれぞれの判断で引当金を計上したと言うよりは、この消費者金融会社等の利息返還請求による損失に係る引当金の計上に関する監査上の取扱いに従わないと無条件の監査報告書が入手できないから引当金を計上したと私は理解します。

本来の会計の原則に従えば、過去の貸倒実績や利息返還実績等により合理的に見積り引当金を計上するのです。実は、この3月期については各社とも、合理的な見積による計上を行っていたのです。例えば、アイフルの2006年3月末の財務諸表には次の注記を行っています。

当社は利息返還金につき支出時の費用として処理しておりましたが、みなし弁済規定の適用の厳格化等により財務諸表に与える影響が増したため、日本公認会計士協会審理情報[No.24]「「貸金業の規制等に関する法律」のみなし弁済規定の適用に係る最高裁判決を踏まえた消費者金融会社等における監査上の留意事項について(平成18年3月15日 日本公認会計士協会)」に従い、期末日現在において見込まれる将来の利息返還金相当額を「利息返還損失引当金」として計上することといたしました。

8月22日のエントリー「サラ金ビジネス」で書いたように最高裁が利息制限法を超える金利を否定したのは本年1月だったのです。現在の動きは、日経-貸金業法案を閣議決定、グレーゾーン金利廃止です。でも、施行予定は2年先なので、3月末と9月末で債権・債務は何も変わっていないのです。だから、今回引当金を計上したから、サラ金業者はグレーゾーン利息の返還請求に簡単に応じるかというと、「とんでもない」であり、「従来と同じ」で返還請求を配達証明郵便で送付し、裁判になる直前で和解を求めてこられたりと言うこれまでと同じ戦いが続くと私は思います。

4) 各社比較

2006年3月末の財務諸表(連結)と今回の発表を下として各社の比較を行ったのが、次の表です。

   アコム  アイフル  プロミス 三洋信販  武富士
営業貸付金・・・・・ (A) 1,703,172 2,124,017 1,580,982 483,511 1,540,046
割賦売掛金 131,456 209,581 10,530 40,379 494
営業貸付金利息 389,387 491,357 360,588 128,591 341,463
平均貸付利率 22.9% 23.1% 22.8% 26.6% 22.2%
2006年3月末利息返還損失引当金 23,700 21,074 23,970 4,250 22,500
2006年3月末引当金の営業貸付金に対する比率 1.4% 1.0% 1.5% 0.9% 1.5%
今回発表の利息返還損失引当金繰入額 ・・・・・・(B) 317,000 200,366 174,900 51,300 284,600
今回発表の引当金の営業貸付金に対する比率 18.6% 9.4% 11.1% 10.6% 18.5%
分配可能額(参考)・・・・・・ (C) 751,674 447,173 537,413 173,377 869,358
参考 (C - B)/A 25.5% 11.6% 22.9% 25.2% 38.0%

平均貸付金利率は2006年3月末の営業貸付金残高とその前1年間の利息額から計算しましたが、利息制限法の上限利率(15%~20%)より高い利率です。

2006年3月末に既に引当金を計上していた額と今回の引当金繰入額を合計の2006年3月末の営業貸付金残高に対する割合は、アイフル、プロミス、三洋信販の3社が10.4%~12.6%であり、グレーゾーン利息全額を利息返還損失引当金として計上したものと思われます。アコムと武富士については、アコムが「貸付金元本放棄額を合わせ」と言っており、借り換え等で古い利息が新規借入の元本に組み込まれたものについても返還を考慮したものと思います。武富士も同じと思います。又、過去に支払を受けたグレーゾーン金利の返還をどのように見積もったのかその見積方法にも多少違いがあるかも知れません。

アイフル、プロミス、三洋信販の3社も基本的には同様で違いはないと思うのですが、比率に差があるのは、もしかすると会社の財務体力の差かも知れません。表の分配可能額(配当可能額ですが)は個別財務諸表から私が計算した金額ですが、この分配可能額から今回の引当金繰入額を差し引いた残額の営業貸付金残高に対する比率を見ると3社は、これ以上引当金を増やすと財務状態が苦しくなるのが分かります。これが3社の今回の引当金率の低い理由かも知れません。

5) 今後の見通し

今回の引当金の計上の結果、これからのサラ金・消費者金融ビジネスはどうなるのだろうと思いました。即ち、貸付金を計上する際に、最初からグレーゾーン金利について引当金を計上するのだろうかです。会計からすればバカみたいです。でも、貸付金は契約に従った債権金額で計上すべきであり、一方、同種の貸付金については同じ基準で引当金を計上しなければなりません。そうであれば、最初からグレーゾーン金利のない利息制限法内での利率で貸し付けた方がよっぽでスッキリします。

引当金を計上するなら利息制限法内での利率で貸し付けたのと企業利益は同じである。従って、グレーゾーン金利解消の法律が制定される前に、日本公認会計士協会の監査上の取扱報告が法律制定と同一効果を2年以上も前に先取りしてしまったと言うことでしょうか?これ、「まさか」という頭をひねる問題です。

いずれにせよ、様子を見るしか方法はないのでしょうが、これを契機にヤミ金融が横行しないように規制当局は見守って欲しいと思うし、貸し渋りで一時的に資金が必要な人に資金供給がなされない事態にならないようにして欲しいと思います。

6) 蛇足

10月16日のバングラデシュのグラミン銀行で生命保険の必要性を書いたのですが、すでに生命保険の扱いを中止してしまった会社があるのですね。私が、ウェブで確認した所では、

アコムアイフルプロミス三洋信販武富士がそれぞれ取扱中止を言っています。

マスコミに死に追い込む過酷な取立と批判された結果だと思うのですが、私は本当に止めてしまってよいのだろうかと未だ思っています。過酷な取立が、生命保険の扱い中止で終わるわけではなく、債務者が死亡して残った債務を相続人である遺族が相続して払い続けることは残酷だと思うのです。相続放棄という方法がありますが、相続放棄をするには相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に手続きをしなければなりません。相続を知った日とは通常は死亡の日ですから、下手をすればアッという間にやってきます。手続きをしなければ、債務を継承します。

遺族にとっての地獄にならなければよいがと思います。

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2006年10月29日 (日)

顔のビジネス-お化粧

顔のビジネスなんて言ったら、ヤクザ屋さんの仕事みたいですが、そうではなくて広告の顔の話しです。先ず、次の顔ですが、多分化粧品の広告の顔だと思います。

Advtz

彼女のお化粧をする前の顔は、これだったというのです。

Realface

どう思われますか?私は、お化粧をする前の方が暖かみを感じてしまうのですが。人の顔はそれぞれの色々なものを写しだしており、それぞれに魅力があると思うのです。でも、ビジネスは違うのです。最大の利益を生み出すには、どうするか。それは、各人の利益ではないから別の判断が入る。ビジネスとは冷酷な面が多いですね。

ところでこの写真はYouTubeから持ってきたものです。どのようにお化粧で変身したのか興味ある人は、これを見て下さい。

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2006年10月27日 (金)

真実の報道-大淀病院事件

もう少し大淀病院事件を引きずります。2チャンネルに大淀病院のカルテを下にして書いた文章というのがありました。

これの701、703、704、705です。

毎日新聞のスクープ記事はこれであったのですが、やはり私には筆が走りすぎていると思えます。なかでも、「この日当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。」の部分は、その後もこれを裏付ける情報はネットでも確認できず、情報源は何であったのだろうと思います。マスコミに情報源の開示を求めないが、情報が正しいことを確認した上で発信する必要があり、その情報に関する責任をマスコミは持つべきです。(誤報なら、誤報であったと入れることも必要。)

なお、10月21日のエントリー大淀病院事件 (続)の3)一つ前のエントリでの”4)  裏情報”の一部訂正でカルテのコピーが病院から報道陣に渡されたとありますが、これに関して2チャンネルの707も同じ趣旨を言っています。事実である可能性が高いと思うのですが、そうなるとマスコミとはバカ集団で真実を追い求めることが出来ない人達なのだろうかと思ってしまいます。

米国であれば、マスコミ各社は病院と医師から名誉毀損による損害賠償で訴えられたのだろうと思います。

これは、2006年5月17日の奈良新聞の記事ですが、今回の事件の背景を良く映し出していると思います。リンク切れにならないと思いますが、念のため、続きを読むに入れておきます。

「南和地域は、病院と診療所を合わせても町立大淀病院だけしか出産を扱う医療機関がない。」と言っていますが、南和地域とは奈良県南部の五條市と吉野郡の一市三町十村(五條市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝村、天川村、野迫川村、十津川村、下北山村、上北山村、川上村及び東吉野村)の地域のことで、町立大淀病院産科の存在は貴重だと思います。2006年5月17日の奈良新聞の報道で伝えている奈良県の産科及び産科医不足が問題を引き起こしたと見るべきで、この現象は奈良県だけではないと思います。高校の履修単位不足問題と同じように日本各地に広がっているのではと思います。

医療において地域格差が拡大していっていると私は考えます。でもかけ声だけで無くならないのでしょう。根本的なところを良くして行かねばならないと感じます。これ以上の格差拡大は日本国民を悲惨な道に追い込んでいく恐れもあるのではと心配します。

本日の衆議院厚生労働委員会で、この事件に関連しての討議があったものと了解します。議事録を見て追って紹介します。

誰も知らずに問題が発生することは更に悪く、改善すら出来ない。その意味では、毎日新聞も貢献したことを認めます。

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2006年10月26日 (木)

ストックオプション

ストックオプションの課税に関して10月24日最高裁が過少申告加算税賦課決定の税務署の処分を取り消す判決がありました。(判決文はここにあります。)この判決に関して、上告人の代理人であった鳥飼総合法律事務所がプレス・リリースを行っていますが、その文書はここにあります。

この事件は、それ程単純でない面を持っているので、以下に書いてみたいと思います。(単純な事件などないかも知れませんが)

(1) ストックオプションとは

東京証券取引所の用語説明がここにあります。例をあげると、会社が取締役に対して5-10年先に自社株を150で購入するオプションを与えます。(オプション付与時の株価は100とします。)でもオプションだから、この取締役は購入する義務はありません。だから、もし権利行使時期に株価が150以上であれば、購入するでしょう。もし、200で売却できれば50の利益となります。結果、ストックオプションを与えられた取締役は懸命に働いて業績を上げ、自社株の株価を上げようとする。株価が高くなれば、一般投資家もHappy、会社も資金調達が有利になりHappy、当然その取締役もHappyで皆Happyと言うわけです。

(2) ストックオプションを行使して株式を得た人の所得税

(1)の例で、権利行使をして取得した株価が170であったとします。これを150払って取得(オプション取得時は無償。株受領時に150)したのだから時価170との差20の利益を得ました。この20は、取締役の業務対価であると考えるのが妥当です。そこで、給与所得なのです。200で売却したら、株式譲渡所得が30得られたのであり、上場株を証券会社経由で売却したのなら30に対して所得税7%+地方税3%の税金を払います。

でもニュースには、一時所得という言葉が出てくるのは何故かです。ストックオプションは、日本では平成9年(1995年)6月施行の商法改正で可能となり、それまでは日本にストックオプションがなかったからなのです。(厳密には、平成7年の特定新規事業実施円滑化臨時措置法の改正により特定の株式未公開会社でストックオプションが可能となった。)でも株式の有利発行は、それ以前から存在していたのであり、株式の有利発行による差額の利益は一時所得と税務署は考えていたし、今でも役員、従業員のその業務・勤務・労働の対価として取得する場合ではない株式有利発行の利益は多くの場合一時所得です。(参考:所得税基本通達23~35共-6)(要は、取得の原因が何によるかで、各種所得のどれに該当するかです。)

給与所得と一時所得は所得税法では次のように規定されています。なお、一時所得は一時の臨時的性格であるとして課税所得金額を求める際に2分の1にするので、税額としても約2分の1となります。(厳密には一時所得は50万円を控除した残額を2分の1。給与所得は金額が大きい場合でも5%は給与所得控除が適用される。)

第28条①  給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
第34条①
 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。

(3) この事件の人達の所得

平成9年以前に日本に制度はなかったが、外国にはあった。この事件のケースは米マイクロソフトやデル、コンパック、シスコシステムズの日本法人元役員ら7人であり、役員就任を受けた会社ではなく、その親会社のストックオプションを得たのである。そして、東京国税局直税部長が監修、所得税課長編集で(財)大蔵財務協会が発行した「回答事例による所得税質疑応答集」において平成6年版まで「ストックオプションが給与等に代えて付与されたと認められるとき以外は一時所得として課税される。」と書いてあったからややこしいのである。”以外は”との表現であるから、この文章も相当読みにくいのであるが。

最終決着はこの平成17年1月25日の最高裁判決(要旨)で、やはり給与所得であるとされた。

(4) 10月24日最高裁判決

10月24日の判決は税務署の過少申告加算税賦課処分を取り消したものです。過少申告加算税賦課処分とは、期限までに申告と納税があったが、正規の税額より小さかった場合に、税務署は追加の税納付(及び修正申告)を求めると共に追加税額に過少申告加算税を賦課したと言うわけです。

これまた、ややこしいのは問題となっている所得は平成8年、9年、10年と11年の4年分でいずれの年もそれぞれの申告期限である翌年の3月15日までに申告納付がなされた。これに対し、税務署が平成12年3月10日に給与所得であるとして増額更正をした。11年分は12年3月15日に一時所得として所得税の申告を行い、税務署は13年3月12日に増額更正と過少申告加算税賦課決定をしたのです。それまでも、税務署と納税者との間でやりとりがあったのかも知れませんが、平成13年に訴訟となったのです。

裁判の結果は、(3)の最高裁判決の通り給与所得税ですが、今回の裁判で確定したのは過少申告加算税賦課は行き過ぎであるから、過少申告加算税賦課を取り消すと言うことです。

ところで、いくら位の金額の話しをしているかというと、日経は7人で総額約2億6000万円と報道していることから、10%が過少申告加算税の税率であるとすると増額更正の税額が約26億円であり、7人で税総額は50億円を超えると言うことです。所得の金額に換算すると7人全員を合計すると100億円を超えると言うことでしょうか?15%が税率であるとしても、34億円位の税額になるから所得金額はやはり100億円程度です。最も、朝日新聞は「7人の過少申告加算税額は、約2億1000万円(2年分)~34万円(1年分)だった。」と書いているので、人によって差はあります。ちなみに、対象となった期間の所得金額はあるデータから見るとA氏3.6億円、B氏16.3億円、C氏2億円、D氏6.6億円、E氏1.9億円となるので、所得金額は普通の人から見れば相当の高額です。ちなみに2000年(平成12年)8月23日当時の報道ではマイクロソフト日本のみで150人、70億円の申告漏れという報道でした。

(5) 企業にとってのストックオプションの経理・税務

従来企業側は、ストックオプションを与えた場合に、自己株式をストックオプション実行に備えて取得し、これを取得価額で自己株式として帳簿に載せ、実行された際に取得価額と実行価額の差を、損失であれば自己株式処分差損、プラスであれば自己株式処分差益として処理していました。貸借対照表、損益計算書の扱いが平成9年以降でも何度か変更となり、それにより法人税法上の益金・損金の扱いも変わっているので本年5月の会社法施行前については省略します。

企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」が企業会計基準委員会より公表されており会社法施行日(2006年5月1日)以後適用となります。その結果、ストックオプションは譲渡不可能ではあるが一種のデリバティブであり、適正額を人件費認識することになりました。例えば、ストックオプション付与時の株価が100でこれを150で購入できるオプションは、150以上に高くなる可能性がある以上はその価値はゼロではなく、何らかの正当な価値を持っていると考え、この価値相当分を人件費とし、人件費/新株予約権という仕訳で、人件費の認識をすべきと言う考え方です。なお、一時に人件費として認識するのではなく、付与日から権利確定日(行使可能期間の初日)まで、期間案分します。

ストックオプションの価値をどのように評価するのかという大問題があります。ウェブを見ると色々なところが売り込みをしています。なお、企業会計基準第8号が制定されるに至った背景には、2005年1月のIFRS(国際会計基準審議会-Internatioal Financial Reporting Standard)基準2号-Share Based PaymentやFASB(米国財務会計基準審議会-Financial Accounting Standard Boad)基準123号-Share-Based Payment(2004年改正)がそれぞれ2005年1月1日、2006年1月1日以後に開始する会計期間から適用されることがあり、国際的な会計基準の統一ということがあります。

企業税務では、2006年5月1日以前(余り前だと違いますが)迄は、自己株式処分差損益は資本積立金(法人税の用語であり、会計用語では資本剰余金に相当します。)を増減させるだけであったので、税への影響はありませんでした。2006年5月1日以後は、法人税法が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」としていることから、企業会計基準第8号をフォローするのだと私は思います。しかし、ストックオプションの価値評価を故意に高くすれば、人件費が多くなり税額計算の元となる企業所得を下げ、税を減らすことが可能となるから、ストックオプションの価値評価については何か基準が出来るのではと思います。

(6) 報道

私はNHK TVのニュースで報道していたのを見ました。でも、誤解を与える内容と感じました。(私でも混乱を感じましたぐらいで、予備知識のない多くの方が見られたら誤解があるだろうと。)

新聞の方が、未だ正確です。

それと報道の姿勢に「悪の税務署に裁判で勝った。」という雰囲気を感じてしまったのです。「不当な過少申告加算税は否定された。」と言うのが今回の裁判です。税はその課税基準が公平であると共に税徴収も公平でなければなりません。税法の適正な執行と徴収がないとすれば、馬鹿馬鹿しくて税なんて誰も払おうとしないはずです。税の公平という基準に立って、税は考えるべきと思いました。

参考に、各社の報道を以下に並べます。なお、NHKはリンク先が既に消滅しているため、続きを読むに文章を入れておきます。

日経-ストックオプション、加算税賦課は違法・最高裁判決
朝日-ストックオプション「加算税は違法」 最高裁判決
毎日-ストックオプション訴訟:過少申告加算税は不当 最高裁2審破棄、国税の一部敗訴確定
読売-自社株購入権、最高裁が加算税課税認めず…国税が敗訴
産経-過少申告加算税取り消し 最高裁 ストックオプション訴訟
日テレ-ストックオプション上告審 国税側が敗訴
TV朝日-ストックオプションで得た利益は何税?最高裁判決
NHK-続きを読むにあります。

TVは、限られた時間内での報道だから衝撃的な内容になりがちなのでしょうが、やはり製作側には限られた時間でも誤解を与えない正確な報道をするように望みたいものです。(バラエティーは得意でも真実の報道はTV局には難しいのでしょうか?大淀病院事件もそうでしたが)

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2006年10月24日 (火)

良いサマリア人法

医療関係を続けます。良いサマリア人をご存じですか?(ルカによる福音書10章29節~37節に出てくる良いサマリア人です。続きを読むにルカによる福音書10章29節~37節の部分を参考として掲載しました。)

(1) 機内緊急放送

あなたは医師であったとします。用があってパリに行っていました。帰国の飛行機は日本航空406便、パリ発18時05分、成田着14時00分)でした。飛行機は定刻通り、シャルルドゴール空港を離陸。離陸後2時間ほどして、食事が終わりかけようとしていた時に機内放送がありました。

「ただ今、突然具合の悪くなられたお客さまがおられます。お医者様、看護師の方はおられませんか?」

さあどうしますか?名乗り出るか、ダンマリでいるか。大淀病院事件を報じているマスコミだったら、ダンマリでいたら、無茶苦茶たたかれるでしょうね。でも、医療機材は飛行機に装備してある物だけだし。自分の専門外の分野であれば的確な診断は出来ないし。所詮治療なんて出来ないだろう。注射をするにしても気圧が低いから、いつもとは少し違う。患者を助けるには緊急着陸をしての救急医療が必要かの判断が重要かも知れない。丁度今サントペテルブルグ上空を飛行中。間もなくシベリアだし、時間も深夜となる。緊急着陸をしたら、到着時間の遅れは生じるし、航空会社の費用負担も多大だし、乗客にも迷惑を掛ける。もし、名乗り出て何もできなかったら、もし診断を間違ったら、今のマスコミだったらもっと厳しい非難を投げつけてくるかも知れません。

この資料-航空機内での救急医療援助に関する医師の意識調査~よきサマリア人の法は必要か?~ によれば、アンケート結果はドクターコールに遭遇したら申し出ると回答した医師は41.8%(28名),その時にならないとわからないと回答した医師は49.2%(33名),申し出ないと回答した医師は7.5%(5名),その他1.5%(1名)であった。

(2) 良いサマリア人法

米国の各州には良いサマリア人法(Good Samaritan Act)があります。ここに各州の良いサマリア人法の該当条文番号があります。一つの法があるのではなく、ある法に条文を追加しており、リンク先が出てきます。

これらの良いサマリア人法は、緊急の場合に病人やけが人の救助に無報酬で従事する医師等の民事責任の免責(故意または重過失を除く)を規定しており、州によっては一般人も免責の対象としています。例えば、カリフォルニア州の次の規定です。

No licensee, who in good faith renders emergency care at the scene of an emergency, shall be liable for any civil damages as a result of any acts or omissions by such person in rendering the emergency care.

(3) 日本では

日本には良いサマリア人法がありません。従い、民法の事務管理による権利義務が発生します。民法第698条(緊急事務管理)は次のように規定しています。

管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

しかし、この698条は医療行為を想定したものではなく、一般的な条文です。例えば、台風が近づいてきているが隣家は空き家である。親切で補強してあげたと言ったケースです。民法の事務管理は、『他人の事務を管理する義務はない(行き倒れの人を助ける義務は民法上は存在しない)。しかし、ひとたび他人の事務の管理を始めた以上は、依頼された場合と同様に責任を持って事務にあたらなければならない。その代わり、その費用は償還される』と言っているとも考えられます。

医師法第19条第1項は次のように規定しています。

診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

但し、たまたま乗客として乗り合わせていた医師が診療に従事する医師と言うには、無理があると思うし、また機内放送が特定の乗客(医師)になされたものでないことから診察治療の求と言えるのかと考え、私は医師の義務は発生していないと考えます。しかし、名乗り出たらどうなのでしょう。医師法を初め様々な義務が医師に発生しないでしょうか。

日本航空と全日空は、上記(1)の資料によれば「JALとANAは紛争が生じた際に弁護士費用まで含めて医師を保護する方針を公表している。」と記載あることから、航空会社の責任として医師に医療過誤訴訟が生じたとしても対処する方針と理解します。(両社への確認はしておりません。)

(4) 秋田県救急救命士の書類送検事件

2005年3月25日患者を搬送中に救命救急師が除細動器を使用しました。除細動器というのは、この東京消防庁がAEDの講習が始まりました!-平成16年7月から一般市民も行うことができるようになったAED(自動体外式除細動器)と言っているこの除細動器なのですが、少し違うのは自動(Automatic)でない手動除細動器だったのです。実は、救急車は自動除細動器も設置されていたのですが、故障で使えなかったのです。そこで、救命救急師は手動で操作する除細動器を病院に到着するまでの間使用して心臓蘇生に努めたのです。病院到着後も病院の医師がすぐに患者に対応できない状況だったということで、医師が対応できるまでの間継続したと思います。

でも、手動除細動器は医師にしか使用は認められないと秋田県警は医師法違反でこの救命救急師を2005年7月4日に書類送検したのです。秋田地検は8月31日起訴猶予としました。2005年9月1日の共同通信のニュースは以下でした。

「除細動必要だった」 機器使用の救命士起訴猶予

記事:共同通信社 【2005年9月1日】

 秋田地検大館支部は31日、医師しか使用してはいけない除細動器を患者に使ったとして、医師法違反の疑いで書類送検された大館市消防署勤務の男性救急救命士(34)を起訴猶予とした。
 秋田地検は「患者は非常に危険な状態で、除細動しなければならない状況だった」とし、除細動器を使った救命士の判断が患者の遺族から感謝されていることも考慮したという。
 秋田地検などによると、救命士は今年3月25日、心室細動を起こし心肺停止状態となった男性患者を大館市の病院へ運んだ際、病院の医師がすぐに患者に対応できない状況だったため、違法行為と知っていて独断で手動式の除細動器を使用した。

 その後、医師が除細動器を再度使い、患者は一時心拍を再開したものの、間もなく死亡した。

 救急車には、心臓の動きを機械が解析し、電気ショックを与えるかどうかを表示する半自動式除細動器が備え付けられており、救命士は使おうとしたが作動しなかった。手動式除細動器の使用は医療行為に当たり、医師以外は使用できない。
 その後、半自動式除細動器のケーブルが断線していたことが判明し、輸入販売元が各地の消防本部に緊急点検を依頼した。

(5) 良いサマリア人法は日本にも必要と思うが

(4)の秋田県の救命救急師事件のこと、それに奈良の大淀病院事件、福島の大野病院事件、或いはこれ亀田病院事件ですが、医師のほとんどの方はトンデモ判決と言っておられます。千葉日報(本年9月12日)-高2男子死亡 病院に8150万円賠償命令:千葉地裁 カテーテルで血管損傷

「亀田病院はの亀田信介院長は「致死量のテオフィリン中毒のため救命できなかった。このような症例で医療機関に責任があると判断されては、日本の医療は荒廃する。直ちに控訴する」とのコメントを出した。」とのことであります。民事で、トンデモ判決が下される可能性はあるのです。

良いサマリア人法は、私は制定により不都合が生じることはないと思うのです。万一の時でも、医師から治療を受けたい。でも制定に向けての動きはそれ程大きくはありません。むしろ、大淀病院事件の様にマスコミは病院や医師を問題ありとしてたたいています。私の10月14日のエントリー”救急医療ーどうなるの”のこんにゃくゼリー事件も5病院で受入が出来なかったのですが、最終的に受入を行った川崎市立病院が悪者になっている感じです。

日本でもボランティアが推奨されるようになってきた。良いサマリア人が尊敬されて良いと思うのです。

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2006年10月23日 (月)

続続々 大淀病院事件

またまた大淀病院事件について書いてしまいます。

(1)正義のマスコミ?

10月17日に報道があったのですが、毎日新聞のスクープだったのです。毎日新聞2006年10月22日支局長からの手紙:遺族と医師の間で(奈良支局長・井上朗)で「結果的には本紙のスクープになったのですが、第一報の原稿を本社に放した後、背筋を伸ばされるような思いに駆られました。」と言っています。

Webのニュースで各社の時間を見ると毎日新聞3時00分、朝日新聞12時13分、読売新聞13時1分、産経新聞13時03分でした。

報道されている内容は、事件を部分的に捉えているだけで、本質には迫っていないと思うんです。毎日新聞の支局長からの手紙の「背筋を伸ばされるような思い」とはよく分からないのですが、「やったー。万歳!」という感じではないかと思ったのです。

でも「病院のガードは固く、医師の口は重い。」とあり、取材したのは、遺族が中心であったと思うのです。新生児の誕生が8月8日で妊婦死亡が8月16日でした。2ヶ月以上経過しての報道です。だったら、一方のみの取材ではなく多方面の取材を行い誤解を与えない真の問題点や核心を突いた報道にすべきと私は考えます。他社も負けずにと報道しているが、同じ様なセンセーショナルな報道が多く、それに更に輪をかけたのがTV局であり、その上を行っているのがTVワイドショーです。

例えば、医師には守秘義務があります。「医師からは取材できないので、患者からの情報だけとする。」は偏り過ぎと思います。自分自身が患者だとしたら、医師には守秘義務を守って欲しいと思うはずです。さもないと、裸になって弱点をさらけ出せないはずです。医師と患者の信頼関係は重要です。医師が慎重になるのは解ります。

「マスコミは暴力です...」と言っておられるのは、いなか小児科医さんです。マスコミは良い社会をつくるために報道をして欲しいと考えます。

(2) 子癇発作

「元検弁護士のつぶやき」の中のコメントで山口(産婦人科)さんが、解りやすい解説をされておられるので、転載させていただきます。

浅学ながら、他の産科医が書き込みなさらないのでXXXさんに。

まず子癇発作というのは血管が締まって脳に血が行かなくなる状態です。当然脳以外の所でも血管が締まっていますから胎盤や腎臓、肝臓でも血流が極端に落ちます。従って一時的とはいえ脳全体が酸欠になっている上、さらに腎不全と肝不全がこれまた一時的とはいえ起こっているとお考えください。そうなれば脳浮腫(脳がむくむ)も起きますし、胎児の状態も悪くなります。けいれんが起きていれば呼吸状態も悪いでしょうから、胎児の状態はさらに悪いでしょう。母体がそのまま死んでしまうことだってあります。前にも書きましたがこれくらい重症だと大体1割死亡。ここまでで重症の子癇発作がどんな状態かイメージできたでしょうか?
で、医者の間では知られた事実ですが、脳梗塞の後血流が再開すると、そこで脳出血が起こることもあります。今回はこれではないかと推定しているわけです。
さらにさらに子癇発作というのは妊娠中毒症の妊婦に起きやすいわけですが、比較的軽症中毒症でも血が固まりやすくなって、ちょっとしたきっかけで体内に血栓が起きてしまいます。ましてや子癇発作時は、全身に微少な血栓が飛び散ったあげく、かえって止血機構が破綻して出血が止まらなくなるDICという状態も起きやすくなります。こうなったらもう多臓器不全から死亡へまっしぐらです。妊娠中毒症や子癇発作がどんなに危険なものか、おわかりいただけたでしょうか。私自身も遭遇経験はないので、ちょっと怖さを大げさに書いているかもしれませんが、間違っていたらどなたか修正してください。

というわけで、意識の戻らない重症の子癇発作患者を受け入れるというのは、並ではない覚悟が必要です。胎児も死ぬかもしれず、母体も死ぬかもしれない。しかも死ねばバッシングが待っている。おまけに前に書いたように、検察は「万全の体制でやれないところで危険な症例を引き受けるべきではない」と福島県立大野病院の事件で医師を逮捕したのですから、NICU,ICU,新生児専門小児科医、麻酔医、産科医数人ずつと、脳出血が明らかになった時点でさらに少なくとも脳外科医2名を直ちに用意できなければ受け入れ不能と回答するしかありません。野戦病院じゃあるまいし、「ベッドがなくても受け入れろ」という言葉の非現実性がお解りでしょう。
最後に外科医が脳をいじるのは全然無理。どこを切れば脳にダメージを極力与えずに血腫を取り除けるかなんて、脳外科医以外にはできない判断。それにこんな修羅場の帝王切開を専門医でもない外科医がやったら大変ですよ。「やったこともない手術をやった!そのため患者が死んだのだ!逮捕だ!」となるのが分かり切っています。

(3) 脳内出血

脳内出血を子癇と誤診したから、妊婦が死亡したなんて、そんな報道されているほど単純ではないことを多くの方は理解しておられると思いますが、この妊婦の脳内出血とはどのような状態であったのかm3という医師のブログ・掲示板に転載可として書かれていたというので、下記に掲げます。

今日、患者さんの死亡原因の診断を教えてもらいました。右脳混合型基底核出血で、手術としては脳室ドレナージが行われたようですが、かなり大きな出血だったため、回復され なかったそうです。
脳内出血の原因は、年齢から考えて、aneurysm
(動脈瘤)があったんだろうか。32歳といえば、aneurysm破裂の好発年齢ですよね。年齢から考えるとAVM(動静脈奇形)は、否定的で すし、予後は比較的いいはずですから。aneurysmは分娩時におこる頻度はまれだったな。そういえば妊娠20週まではAVMが多くって、30週から40週まではaneurysmが多いという文献もあったっけ。PUBMEDでももう一度調べてみます。
不幸にも亡くなられた方の既往のepisodeに何かなかったのかなと思いました。
()は私の注です。

大淀病院でこの患者の脳内出血に対処可能であったかに付いては、「元検弁護士のつぶやき」の中で、転載可として脳外科医(留学中)さんが書かれていますので、下記に掲載します。

脳室体外ドレナージだけであったのならば、大淀病院で可能です。
ただし、臨月の妊婦でなければ。
決断してから、準備、手術、回路の設置終了までは、急げば30分程度の処置ですが、この場合片方だけでなく、両側脳室をドレナージした方がベターなので、さらに15分ほど追加、さらに出血で脳室がシフトしていて一度で穿刺できない可能性なども考えると、処置のために「最低」1時間は予測しなければなりません。
そしてドレナージの最中に脳圧の急激な変化が、胎児の心拍数低下などの危機的状況を導く可能性なども考えれば、この処置は手術室で帝王切開と同時に行うべきです。
麻酔科も、NICUもない病院で、このような危険な処置は行うべきではありません。
さらに、いつ搬送先が決まるかもわからない状況です。
もし、CTで出血がわかったとしても、「母子の管理が十分に出来る施設へ一刻も早く搬送して、搬送先の手術室で処置を行ってください」というのが、正しい判断だと確信します。

また、視床から被殻を巻き込む大型の血腫で、かつ脳室穿破を伴っているタイプの脳内出血であれば、CTを撮れば見逃すことはありませんが、たとえ手術を行ったとしても予後は不良です。
出血の原因としては、高血圧性のものが第一に考えられます。若年者なので、脳動静脈奇形も鑑別しなければなりません。動脈瘤破裂の好発年齢は50代で、部位的にも考えにくいと思います。ただし、血腫で何が何だかわからなくなっていると思います。

いつかは起こりえる、そして起こるべくして起きた事故ですが、学ぶことはとても多いと思います。
問題点は、たくさん見えてきました。
少なくとも、このブログをご覧になられている方には、この産婦人科医を責めることは、何も生み出さないということを認識していただけるのではないかと思います。
そしてこれから生まれる命と母になる女性のためにも、今後どのような体制を整えていかなければならないかを考える必要があります。
それが、亡くなられた方と、残されたご家族に報いる、唯一の方法であると思います。

(追記)

たまたま見つけた文章です。

脳室ドレナージは要するに脳圧が上がらないように、水抜きをするということだから、それで 患者の家族が満足できるレベルの「救命ができた」とは言えない。てか、ふつうの人は救命=ふつうに生活できると思いこんでいるが、あくまでも救命=寝たきりであろうがなんだろうが「生きている」状態のことだ。

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2006年10月22日 (日)

長期生活資金貸付制度

貸金業の規制についての検討は現在進行形でしょうが、9月6日のエントリーの(3)生活福祉資金の貸付でも書いたモーゲージ・ローンについて書いてみます。

1) モーゲージ・ローンとは

モーゲージ・ローンとは不動産担保貸付です。個人向けのモーゲージ・ローンだったら、住宅貸付金だから、ほとんどの人がマンションや家を購入するにあたって利用しています。米国の場合だったら、自分が住んでいる家を担保に生活費に充てるために借入を行う。そもそもレイオフ(解雇)なんて当たり前の社会だから、高収入が得られたときに高級住宅を購入する、レイオフになったら、或いは自分から止めたら、グレードを落として別の家に住めばよいという文化・社会だから住宅の担保価値もそれなりにある。

日本では、住宅の担保価値は低い。何故なら居住している人を追い出すことが容易ではないから。でも、マンションなんて中古市場が活発に動いて、世の中は変わってきていると思うのです。

いずれにせよ、モーゲージ・ローンだったら、担保があるのであり、無担保サラ金ローンより低金利で月々の返済額も少額の長期融資が可能であろうし、そうでなくては意味がないと思う。消費者金融業と呼ばれている業者だけでなく一般銀行も参加して良い意味での競争により低金利融資マーケットが形成されて欲しいと思う。

一方、収入が無ければいくら利息が安かろうが、返済は出来ない。サラ金業者のCMですが、「無理な借り入れにご注意を。ストップ!借りすぎ」で、返済資金の目途がないにも拘わらず借入をするのは無茶です。

2) 長期生活支援資金貸付制度

「65歳以上で低所得の人を対象とし、低金利で700万円以上貸し付けてくれるローンです。」が、少し解説が必要です。以下をご覧下さい。なお、厚生労働省のWebはここです。

  1. 借入人が65歳以上であることと同時に、同居している配偶者も65歳以上であることです。
  2. 居住土地の評価額が1000万円以上あることです。(貸付金額が土地の評価額の概ね70%となります。)
  3. 土地、住居は借入人の所有であり、抵当権等の担保が設定されていないこと。
  4. 担保として、土地、住居の抵当権と推定相続人が連帯保証人となること。
  5. 低所得であること。(住民税が非課税であること。)
  6. 利率は年3%又は銀行の長期プライムレートのどちらか低い利率

長期生活資金の貸付者は都道府県の社会福祉協議会で、申請の窓口は市町村の社会福祉協議会となります。

3) 住民税の非課税

収入がいくらで非課税になるかというと、65歳以上で年金のみの収入の場合では、年間収入222万円以下の場合に、所得割は非課税となり、更に210万円程度になると均等割りも非課税となります。(均等割り非課税額は居住地により少し金額が異なる。)なお、配偶者は老齢基礎年金のみの収入(年金額79.2万円)のみで、控除対象配偶者になると想定しています。夫婦二人の合計年間収入300万円がボーダーラインという感じです。

自営業で、商店なんかをされていた方であれば、商店の収入も少し継続している可能性はありますが、年金による世帯収入は158万円ですから、高齢者では住民税は非課税の方も多いのではと思います。

4) 生活保護

いくらの収入以下であると生活保護が受給できるかというと、地域により異なるのですが、ボーダーラインの高い1級地-1と低い3級地-2の場合の夫婦二人の場合の金額は次の通りです。(年齢は69歳とします。)

1級地-1: 120,270円(月額)、即ち144万円(年額)
3級地-2: 93,210円(月額)、即ち112万円(年額)

なお、持ち家であるとして住宅扶助は計算に入れていません。また、医療扶助、介護扶助を計算に入れていないので上記以外に受給できます。但し、年金を受給していれば、差額なので100万円年金収入があれば、44万円、12万円が生活保護で受給できる金額となります。

生活保護を受けるには、普通程度の住居用土地家屋を保有することは認められるが、資産、能力等すべてを活用した上でも、生活に困窮する者が対象であることから、預金は最低限を残した後、保険は解約した後、資産は売却した後です。従い、生活保護を受けることはつらいものがあります。

参考までに、これが厚生労働省の生活保護制度の概要です。

5) 扶養義務

民法に扶養義務が規定されています。配偶者と3世代上の直接の親(曾祖父母迄)、3世代下の直接の子(曾孫迄)と兄弟姉妹です。少し前までは、家が生活の中心で扶養義務なんて当たり前ということでした。農業であれば、田畑は自分が手に入れたのではなく、親、祖父母から引き継いだ資産であり、それにより収入を得ていたから、扶養なんて当然だったんです。

現在は、親の面倒を見るのにも金銭的余裕のない人も沢山います。無理矢理扶養義務の実行を迫るのは難しいのが実状です。一方、生活保護費は税金からの支出であり、扶養義務を不問にして保護を与えることは出来ない。非常に単純ではないところですが、必要としている人には憲法と法の精神に従い給付すべきです。

実体としては、生活保護の世帯や人員の数は増加しています。次のグラフは厚生労働省の数字を表したものです。

Photo_9

上のグラフを、年代別に表したのが下のグラフです。60歳代以上の年齢層では保護率が大きいのです。

A_1

扶養義務を言いましたが、扶養義務と密接に関係するのが、相続です。配偶者と子(子が死亡している場合は、その子孫)、子がいない場合は親、そして親も死亡している場合は兄弟姉妹が相続人ですから、扶養義務者と基本的に重なります。

6) 長期生活資金の貸付利用のおすすめ

住民税非課税限度以上の収入がある人については、大きな問題はないとして、それ以下の収入の人にとっては長期生活資金の制度は魅力的だと思うのです。その理由は。

  1. 利子率が年3%以下であることから、魅力的。
  2. 制度上は最大貸付実行額が1月30万円以内であるが、最大額の借入をする必要はなく、最適額の借入とすればよい。
  3. 扶養義務者に無理な負担を強要しなくて良い。(相続されるであろう住宅とその土地が返済のために処分せざるを得ないかも知れなく相続と扶養義務との選択となる可能性があるが、選択権は扶養義務者(推定相続人)にある。
  4. 生活保護の受給のように資産の処分義務はない。

一方、制度としての観点から見ても、長期生活資金の利用にあたっては、民生委員の紹介も受けることから、長期生活資金のローンが利用限度額一杯になっても生活保護にスムースに移行できると考えられる。無理な生活保護の拒絶や不正受給を無くすることにもつながると私は思う。更には、現状であると、扶養を受けられないから、生活保護となるにも拘わらず、住宅の保有は合理的な範囲で認められていることから、受給者が死亡するとその財産は扶養を果たさなかった扶養義務者に相続される。

理由があるから扶養できなかったはず。しかし、生活保護の受給は相続の権利に影響を及ぼさないから、相続が生じるのは当然である。

7) 今後の制度改革

長期生活資金の利用について社会福祉協議会に問い合わせてみたのだが、現実には少ないとのことである。その理由としては、評価額1000万円以上の土地を保有している人が少ないからと言うことである。特に、地方ではそんな土地を保有している低所得の方がほとんどおられないとのことである。一方、都会でもマンションは対象外であり、仮に一戸建てであっても住宅ローンを返済済みで抵当権が残っていない場合となる。

現状では間口は相当狭いのである。高齢化社会を向かえ、高齢者の低所得者に対して低利融資の制度を提供することは必要と考える。その為には、リバースモーゲージローンと呼ばれている長期生活資金貸付制度を利用の容易な形、ニーズにあった形に改革することが必要と思う。話題になっている消費者金融のグレーゾーン金利とは、出資法の上限利率(年利29.2%)と利息制限法の20%程度の利率との差についての話しである。それはそれで重要であるが、収入が低い高齢者については、低利長期の長期生活資金貸付制度の充実等で対処することが必要と考える。

長期生活資金貸付制度は、グレーゾーン金利について検討している金融庁ではなく、厚生労働省であるが、貸金業の改革にあわせて検討して欲しいと思う。

蛇足となるが、年金制度の根本問題(保険料を払わなくて、年金が受給できなくても、それより金額の大きいかも知れない生活保護を受給できる。)についても合理的で無理のない改革をして欲しいものと思う。

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2006年10月21日 (土)

大淀病院事件 (続)

大淀病院事件について、またまたエントリーを。

1) 医師個人の問題か?システムの問題か?

本日、こんな報道共同通信-ベッドあったが拒否 「別の妊婦に必要」とがありました。記事の中で、”奈良病院は「切迫早産で入院中の妊婦がいて、確保する必要があった。受け入れていたら、その人を大阪方面に転院させることになった」としている。”と書いてあるので、表題ほど単純な話しではないと思います。

本事件では、産科の医師、医療機関、それに救急医療体制とかの問題がクローズアップされたのだと思うのです。厚生労働省は異なった見解かも知れませんが、医師不足があり、医師不足のために産科を中止せざるを得ない医療機関が多いのは事実と思います。医師を増やすと医療費が増加する、そして国民の医療費負担が増加するとの議論があります。しかし、「医師を増加すると、いくら医療費が増加するか?」、「医療費は高齢化社会を向かえるにあたって、いくらが妥当であるか?」が本当に重要な議論だと思うのです。

それと、一人前の医師を育てるには、相当の長期を要することです。年寄りの医師ばかり、皆これからリタイアしつつある。熟練者が新人に経験をさせつつ、教育していくことは大事だと思います。パソコンの操作だったら、新人は優秀。でも、医療はパソコン操作で出来る仕事ではないし、医療を同一にして欲しいとは思いません。若手を含め多くの医師には、最新医療を学ぶと同時に、過去の先輩の蓄積を吸収して欲しいと思うのです。

大淀病院事件は、私は間もなく出産という妊婦が脳内出血となってしまった不幸な事態だと思うのです。時間も深夜であり、転送が手間取ってしまった。私たちが、学ぶべきは何であるのかを考え、今後に生かして欲しいと思うのです。

2) 大淀病院でのCT検査

大淀病院でCT検査をしなかったことについて、批判があります。私は、10月20日のエントリーで「CT検査をするのであれば、CTを扱える検査技師か医師を呼ばねばならなかった。」と書きました。それに加え、次のように言っておられるブログssd's Diary-October 18, 2006エントリーがあります。

CTでのTisch tot(台上死)というのは実は、非常にポピュラーであり、トラブルの元なのだ。交通事故の外傷などでも、手術中に死ぬのと、CT検査中に死ぬのとでは遺族の受け取られ方が全然違う。
救急室で目に見える外傷のとりあえずの止血をしても、血圧が安定しない。開腹開胸手術、あるいはIVRをするにも主たる出血源を決定する必要があり、救急医はプロテクターを来て被曝しながら輸血をpumpingし、アンビューバッグを押しながら、CT台に乗せる。スカウトを撮ったとたんにアレスト。
治療の流れの上でたまたまCT撮影中に亡くなっても、医療側としては不可避の結果であると理解できるが、治療中の死亡なら納得がいっても、検査中の死亡というと遺族は荒れる。裁判まで行かなくとも(今まではだが)現場でなじられるのは珍しくない。
シリンジポンプやモニターが付いた重症患者をCT検査するには、とにかく人手がいる。最低でも循環・呼吸動態に知悉した人間が二人、頭は回らなくても体はよく動く研修医か看護師が二人に、とりあえず、いてくれるだけでありがたい力仕事担当二人。これくらい欲しい。守衛さんや事務当直を動員しても300床の病院では望むべくもあるまい。
高次搬送を早々に決めたことに落ち度はない。そして、搬送するとなったら、CTを撮ることには意義がなくなる。
意地悪な見方では、もし、脳出血が判明していたら、国立循環器センターでも受けなかったのではないかという意見もある。その意味では撮らない方が「正解」だったのかも。

3) 一つ前のエントリでの”4)  裏情報”の一部訂正

一つ前のエントリでの”4)  裏情報”で、紹介した文章で一部訂正が出ていたので、それを以下に掲載します。但し、本質の部分は変更はないと思います。なお、この文章は、2チャンネルhttp://society3.2ch.net/test/read.cgi/hosp/1161360294/から取ったものです。

なんだ。m3.com情報間違ってたみたいだぞ。
産科当直は一人医長だったそうだ。
ttp://community.m3.com/doctor/showMessageDetail.do?messageId=338896&boardId=3&messageRecommendationMessageId=338896&topicListBoardTopicId=39495&pageFrom=showMessageDetail
1.主治医=担当医=産婦人科部長で、当日の産科当直は産婦人科部長ただ一人でした。産婦人科部長に連絡したというのは、院内(部長室か当直室でしょう)にいる産婦人科部 長に連絡したということです。
お詫びして訂正します。
2.当直の内科医と産婦人科部長の間でCT撮影について議論した事実はなく、当該内科医もそんなことは言っていないし、カルテにもこれに関する記載はない。
3.奈良医大に搬送受け入れを要請したとき、大学当直医は緊急帝王切開で手術室にいた。
4.マグネゾールで痙攣はおさまり、以後投与中は痙攣の再発はなかった。
5.CTGは入院の全経過中ほとんど装着しており、患者には担当の助産師がほとんど付き添っていた。
6.カルテのコピーは病院側から報道陣にあらかじめ配布されたらしい。報道サイドは看護記録の経過をもとにストーリーを作っているが、カルテの内容については専門的で、technical termもあり、十分に把握していない。
7.患者家族の親戚に当たる勤続50年近かった元総婦長が病院側と患者家族の橋渡し役(スポークスマン?)になっている。
以上です。ここに訂正してお詫びします。

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YouTube 30,000ファイルを削除

10月17日のエントリー”グーグルのYouTube買収”でYouTubeの動画には著作権に問題あるものが存在すると書きました。

これ本日のNHKニュースです。日経BPではNHKやフジテレビなど国内23団体,YouTubeから動画ファイル3万件を削除させるとなっています。

ところで、10月17日のエントリーの(2) YouTubeのリスクの2行目のこれを今見たのですが、まだこのピタゴラスィッチは存在しました。

ネットと著作権の問題。YouTubeを買収するグーグルは、今後どうしていくのでしょうね。興味あります。

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2006年10月20日 (金)

大淀病院事件の続き

19病院で搬送の受入が出来なかったことから、相当色々なメディア等で取り上げられています。情報源による違いからなのか、記者の受け取り方の違いからなのか、編集方針の違いからなのか、実は本日の報道は様々です。

1) 妊婦、1時間以上放置けしからん

この朝日新聞-意識消失の妊婦、1時間以上放置 奈良・町立大淀病院は、「看護記録を見た日本産科婦人科学会の専門医は「意識を失った患者には医師が付き添い、原因を調べなければならない。けいれんが起きるまで1時間以上放置したのは信じられない行為」と驚く。」と書いています。

2) 奈良県産婦人科医会の発表「主治医にミスなし」

これも朝日新聞-産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡ですが、「記者会見した同医会の平野貞治会長は「失神とけいれんは、子癇でも脳内出血でも起こる症状で、見分けるのは困難。妊婦の最高血圧が高かったこともあり、子癇と考えるのが普通だ」と説明。「CTを撮らなかったのは妊婦の搬送を優先したためで、出席した理事らは『自分も同じ診断をする』と話している」と書いています。

3) 本当の話は?

大阪府立母子保健総合医療センターの末原則幸・産科部長の話しを前のエントリーの3)で朝日新聞の記事を引用しました。同じ人が毎日新聞-奈良妊婦死亡:搬送先探し、診断不正確で遅れかでは、次のように言っています。本当は、どのような話しをされたのか、新聞ではまた聞きとなり怖いのでしょうか?最も、TVも一部のみをカットして報道するからこれも下手をするともっと怖いのですが。

末原部長は「脳内出血で母親の命が危ないと分かっていれば、産科より救命救急センター、大学病院を中心に搬送依頼した。搬送先が決まるまで待つ時間があるなら、CTを撮る時間もあったのではないか」と指摘している。

4)  裏情報

言葉は適切でないのですが、医療関係者が書いた掲示板にあった文章です。私も、この掲示板を直接見てはいないのですが、相当細かいことまで書いてあるので、真実味を感じます。(おそらく真実と思うが、その確証は取れていないとして読んで下さい。)

ソースが確実なきょう聞いた話。
当夜の当直は外科系は整形外科医、内科系は内科医、産婦人科は奈良医大から派遣の当直医。
患者さんは午前0時に頭痛を訴えて失神、ただ痛みに対する反応(顔をしかめる)はあった。産婦人科当直医は念のため内科当直医に対診を依頼、内科医は「陣痛による失神でし ょう、経過を見ましょう」ということになった。しかしその後強直性の痙攣発作が出現し、血圧も収縮期が200mmHgになったので、子癇発作と判断、マグネゾールを投与し ながら産婦人科部長に連絡した。部長は午前1時37分、連絡してから約15分程で病院に到着。以後二人で治療にあたったが、状態が改善みられないため、午前1時50分、母 体搬送の決断を下し、奈良医大へ電話連絡を始めた。
午前2時、瞳孔散大を認めるも痛覚反応あり。血圧は148/70と安定してきた。この時点で頭部CTも考慮したが、放射線技師は当直していないし、CT室が分娩室よりかな り離れたところにあること、患者の移動の刺激による子癇の重積発作を恐れ、それよりも早く高次医療機関をさがして搬送するほうがよいと判断、電話をかけ続けたが、なかなか 搬送先がみつからない。
午前2時30分、産婦人科部長が家族に状況を説明、そのあいだにも大淀病院の当直医や奈良医大の当直医は大阪府をふくめて心当たりの病院に受け入れ依頼の電話をかけつづけ た。家族はここで「ベビーはあきらめるので、なんとか母体をたすけてほしい。ICUだけがある病院でもいい」と言ったので、NICUを持たない病院にまで搬送先の候補をひ ろげ、電話連絡をとろうとした。家族も消防署の知り合いを通じ、大阪府下の心当たりの病院に連絡をとって、受け入れを依頼した。この頃には産科病棟婦長(助産師)も来院、 手伝いはじめてくれた。大淀病院看護師OGで患者さんの親戚も来院し、多くの人が集まり始めた。けれども受け入れてくれる施設が見つからない。担当医は当直室(仮眠室)か ら絶望的な気分になりながら電話をかけ続けたし、大学の当直医は大学の救命救急部門にまで交渉に行ったが子癇は産婦人科の担当で、我々は対処できないと言うことで受け入れ 拒否された。午前4時30分、呼吸困難となり、内科医が挿管したが、その後自発呼吸ももどり、サチュレーションは98%と回復した。その後すぐに国立循環器病センターが受 け入れOKと連絡してきたので、直ちに救急車で搬送した。患者さんは循セン到着後CT検査等で脳内出血と診断され、直ちに帝王切開術と開頭術をうけたが、生児は得られたも のの脳出血部位が深く、結局意識が戻らないまま術後8日目の8月16日死亡された。

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奈良の妊婦が19病院で搬送受入出来ず

奈良の大淀病院の妊婦が19病院で搬送受入出来ず、亡くなったという報道がありました。多くの報道は、TBSの19病院たらい回しにされ妊婦が死亡の様な内容です。

10月14日の救急医療ーどうなるので、救急医療についてのエントリーを書きましたが、同様な問題を含んでいます。

1) 経過

経過は以下のようなものです。

・8月8日午前0時過ぎ意識不明になる。
・子癇が疑われ、点滴を投与する。
・2時頃、点滴が奏功しないので県立医大病院に受入を打診したが、満床で受入出来ず。
・受入先を探す。
・4時半頃、19ヵ所目で大阪府吹田市の国立循環器病センターへの受入が決定
・6時頃、患者到着
・脳内出血と診断され、緊急手術と帝王切開を実施、男児を出産。
・妊婦は同月16日に死亡。

2) 子癇と脳内出血

メルクマニュアル家庭版の子癇の説明です。

妊娠中毒症の200人に1人は血圧が非常に高くなってけいれん発作を起こします。この状態を子癇(しかん)といいます。子癇のうち4分の1は出産後2〜4日目に起こります。ただちに適切な処置をしなければ、子癇は生命にかかわります。

妊娠中毒症は妊婦のおよそ5%にみられます。と書いてあるので、4000人に1人位の割合で子癇が見られるのでしょうか。

同じく、脳内出血を見ると以下のように書いてあります。

脳内出血は、脳の中での出血です。脳内出血は突然起こり、約半数の患者はひどい頭痛が始まります。

午前0時の段階で、脳内出血を疑わなくてはいけなかったかという点です。CT検査をしないと、脳内出血との診断は出来なかった。時間は午前0時ですから、もしCT検査をするのであれば、CTを扱える検査技師か医師を呼ばねばならなかったと思います。少し様子を見るとの判断で間違いはなかったはずと思います。

3) 搬送

午前2時頃、医師は大淀病院での治療はリスクが大きすぎるとして、県立医科大学付属病院に受け入れを要請したが、ベッドが満床で受入出来なかった。それから、19病院で搬送受入出来ずとなるのですが、この朝日新聞の記事に妊婦の搬送先を探した大阪府立母子保健総合医療センターの末原則幸・産科部長の話しとして、以下の文章があります。

母体に脳出血がある場合、NICU、脳外科、麻酔科、ICU、産科の五つがそろった病院でないと受け入れが難しい。そんな病院は大阪にも5、6カ所しかない。

深夜、関係者の方々は懸命になって受入可能な病院を探されたのだと思います。ある程度、病状は判っている。意識不明であり、出産は帝王切開で行わねばならず、同時に妊婦の治療も行わねばならない。

4) 奈良県の産科医療状況ー医療が悪くなる

上記の朝日新聞の記事に奈良県の産科医療状況が手薄であることが書かれています。これが根本問題であり、奈良県だけの状況かという点です。

多くの医師の方は、医療は崩壊に向かいつつあると考えておられます。懸命に努力をして朝日新聞-奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題となるのですから。そして、マスコミにたたかれたら逃げ出したくなる。

医療サービスが低下すると困るのは誰でしょうか?国民のはずです。困らないのは誰か?金持ちは困らないでしょう。医療が全て無くなるわけではないし、国外で医療を受けることも可能です。格差社会が医療にはいることは悲しいことだと思います。

5) 関連医師ブログ

医師の方々がブログでは、どのように言っておられるか紹介しておきます。

元検弁護士のつぶやき-18病院が受け入れ拒否(大淀病院妊婦死亡事案)
<ブログ管理人さんは、元検事の弁護士ですが、医師の方が多く書き込みをされています。>
新小児科医のつぶやき- 奈良事件に誤診はあるか
へなちょこ医者の日記(当直日誌兼絶望日誌)-奈良の件追加
いなか小児科医-体制不備への着目
東京日和@元勤務医の日々-マスコミの魔女狩り報道が正しいのか?

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2006年10月17日 (火)

グーグルのYouTube買収

グーグルのYouTube買収のニュースは、10月9日(米西海岸時間)の発表であったので、旧聞に属するかましれないが、幾つかのブログでも指摘があるので、私もグーグルのYouTube買収について思うところを書いてみます。

参考:日経BPニュース-激動の3日間。グーグル、YouTubeを16億5千万ドルで買収!

(1)買収方法

グーグルが16億5千万ドル(2000億円弱)をキャッシュで購入するのではなく、グーグル株式16億5千万ドル相当を新たに発行して、新株式を対価としてYouTubeを取得するのである。これは、グーグルの10月9日のプレスリリースにも書いています。

グーグルが米証券取引委員会へ提出した同日付けの開示情報 Form 8-KによればSnowmass Holdings, Incというグーグルの子会社が新たに設立されており、YouTubeを存続会社としてYouTubeとSnowmass Holdings, Incとの合併が行われ、合併対価として16億5千万ドル相当のグーグル株式がYouTube株主に交付される合併契約書が10月9日に締結された。

何故、Snowmass Holdings, IncとYouTubeの合併であり、グーグル株式を対価とする株式交換でないのか、私は解っていませんが、いずれにせよYouTubeがグーグルの100%子会社に今年の年末までになると言うことであります。

(2) YouTubeのリスク

YouTubeのリスクで一番問題となるのが著作権です。即ち、著作権が疑わしい映像がYouTubeで見れるからです。例えば、これですが、NHKが製作したのを誰かが投稿したのだと思うのです。

YouTubeが著作権違反で訴訟を受ける恐れはないのかという点です。日本では、Winny開発者が著作権法違反幇助の容疑で逮捕、起訴されました。 例えば、このYahoo 海外CNET Networksは今回のYouTube買収に関して著作権のことを報じています。

(3) YouTube子会社作戦

YouTubeを子会社としたのは、この点と思います。グーグルを親会社である別法人として切り離すことです。

但し、完全に著作権の問題やリスクから逃げ切ることが出来るのかという疑問はあります。でも、グーグルもそれを十分考慮した上での決断であったはずです。訴訟に巻き込まれることはあっても、大丈夫だと判断したのでしょう。

小規模なYouTubeからは訴訟しても、金は取れぬが、大会社グーグルからは裁判に勝てば金が取れるから裁判が起こる可能性は高い。米国での裁判は陪審員制です。市民の判断が弱者に味方する結果になりうるとの話しがあります。

問題は、YouTubeを子会社とした後にYouTubeが関与した著作権違反だと思うのです。子会社化前の責任であれば、YouTubeの責任ではあるが、株主の責任ではないと逃れることが出来ても、子会社になってからは親会社の経営責任を問われ兼ねないと私は思うのです。

(4) 今後の展開

グーグルが何故YouTubeを取得したのかですが、単に現在のYouTubeの事業をするためだけとは私は思わないのです。動画関連が欲しかったのであろうと思うのですが、動画関連の事業をするとしてもYouTubeでしなくてはならない必然性はグーグルにないと思うのです。

極端に言えば、YouTubeのある特定の技術だけが欲しかった。でも、種々の事情によりYouTubeを会社として取得せざるを得なかった。そんな可能性もあると思うのです。

いずれにせよ、ネットが動画と更に結びつく、動画関連においてもグーグルが有利にビジネスを展開するためが、YouTube取得の目的と思うのです。そして、グーグルならアッと言わせれる様なことをするのではないかと、期待するのです。

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2006年10月16日 (月)

バングラデシュのグラミン銀行

前エントリーに続いてバングラデシュのグラミン銀行関連を書いてみます。

1) テレフォン・レディー

グラミン銀行は面白いと書きましたが、テレフォン・レディーというのもバングラデシュならではの面白さです。

グラミン銀行から融資を受けた女性達(融資を受けるには、5人以上のグループを結成する必要があるので、女性達と書きました。)は、竹細工、牛飼育、山羊飼育、刺繍、絨毯作り、養鶏、機織り、家具作り等をして、これらを販売し、収入を得てグラミン銀行に返済をします。

最近は、新しい職種としてテレフォン・レディーが現れたというのです。テレフォン・レディーとは、携帯電話貸与サービスなのです。これを理解するためには、バングラデシュの電話事情を知らなければならないのですが、2001年で固定電話56万台、携帯電話52万台で合計しても100人当たり0.83台しかなく、しかもこれは事務所等での業務用を含めてであり、そもそも地方に行くと電話線が引かれていなかったり、携帯電話の中継局、基地局もないので地方では電話は100人当たり0.19台となってしまうという世銀関連の報告書があります。日本だったら、携帯電話を加えると100人当たり100台を完全に超えるはずです。

テレフォン・レディーは、グラミン銀行から融資を受けて、携帯電話を購入するのです。そして、これを貸して使用料を得るのです。どこの電話会社の携帯電話かというと、グラミン・フォーンで、ノルウェーのテレノール62%とグラミン・テレコム(グラミン銀行と資本関係はないようです。)38%の合弁会社です。このグラミン・フォーンは今やバングラデシュ最大の携帯電話会社ということです。携帯電話52万台は2001年の数字ですが、2005年末ではグラミン・フォーンだけで550万台であり、そのうち23万台がテレフォン・レディーが保有している電話というわけです。更に面白いのは、テレフォン・レディー23万台は台数では4%を占めるものの、通話量では16%になるというのです。

でも、一体テレフォン・レディーは、どこで携帯を充電するのだろうと思ってしまいました。何故なら、バングラデシュでは未だ配電線網が行き渡っておらず、30%の国民しか電気の恩恵を受けることが出来ないのです。

2) 生命保険

前のエントリーで無利子の乞食ローンがあると書きました。今までに、81,000人の乞食に68百万タカ(1億2千万円)の貸付を行ったと書いてあるので、一人当たり平均1,500円にもならない金額です。子供を学校に行かせたり、乞食の行為を禁止はしないが尊厳ある生き方をするようにグラミン銀行は指導するのです。例えば、乞食をする場所で良いから、何か物を売って収入を得なさいと。資金使途は、蚊帳の購入というのもあるようです。

乞食ローンもキチンと返済されますとグラミン銀行は言っております。68百万タカ(1億2千万円)の貸付中、これまでに41百万タカ(7千万円)が返済されていると。ところで、この無利子乞食ローンは生命保険をグラミン銀行が費用を負担して付保していると説明しています。

乞食ローン以外の通常のローン、住宅ローン、その他のローンについては保険料は借入人負担となるが、生命保険の付保があります。万一死亡しても生命保険金で完済となるのでご安心下さいと言っています。

日本と社会環境がまるで違うので比較することは正しくないのですが、現在マスコミがサラ金の生命保険を非難しています。しかし、本質は債務も相続されるのであり、相続放棄があるから問題はないと簡単には言えないはずです。先ずは、死亡した人がサラ金債務があったかどうか、簡単に分からないかも知れない。あったとしても、未返済額なんていよいよ分からないし、聞くのもバカらしいと放っておけば、相続放棄の期限の3ヶ月を過ぎて、支払を求められたりして。相続放棄は、負債だけを放棄するのではなく現金、預金、住宅、家財を含む一切の資産を含めて全て放棄するのだから、巨額の負債であるならいざ知らず少額のサラ金債務までなかなか目が行き届かないと思います。また、相続放棄をするなら相続人全員がすることとなります。何故なら、負債が大きいからするのであり、一人手続き漏れがあれば、その人に全額が相続されるからです。

私は、生命保険で自動的に全額返済となった方が、よほどスッキリすると思うのです。サラ金業者も、債務者が死亡したら今度は相続人に履行請求をせざるを得ないのですから。しかも、現在の日本のサラ金の生命保険料は全額サラ金業者が負担しているのです。違法な債権取立は、生命保険とは別の問題であり、違法取立は違法取立として厳しく取り締まるべきなのです。問題を混同すると解決に向かわず問題を深刻化させることさえあると思います。

日本のサラ金の生命保険の問題点として言われているのは、「借入人、本人が承認する欄があるが小さくて、無意識でしている。」との指摘ですが、これも保険自身の問題ではなく説明責任の問題のはずです。ちなみに、住友軽金属が従業員個人の承認なし(労働組合幹部からの口頭の承認のみ)で団体生命保険を付保し、その従業員の遺族が住友軽金属に支払われた保険金の退職金を超える部分の金額を遺族に支払うよう求めていた裁判の最高裁判決が本年4月12日にあったのですが、この最高裁判決は遺族の保険金受け取りを認めませんでした。

住友軽金属事件は、被保険者の承諾なしに他人が生命保険を付保し、保険金を受け取ることが許されてよいのかという問題を含んでいるのですが、サラ金保険は、住友軽金属事件よりも問題がないと私は思うのです。(なお、住友軽金属事件は最高裁判決であるので確定です。)

貸金業制度等に関する懇談会が金融庁にあるのですが、その第19回の議事要旨を見ると事務局が次のような説明を行っている部分がありました。

(消費者信用団体生命保険が)安易な債権回収の手段になっているという議論についだが、各担当者のミクロのレベルでは、保険金が請求可能となればノルマが達成できることになるという新聞記事が確かにあった。一方マクロのレベル、会社レベルでみると、保険会社に支払う保険料は業者の負担で払っているが、この保険料は毎年受け取る保険金より高い。これは団体信用生命保険なので、保険金の受取りが増えると翌年支払う保険料の額が高くなる。つまり、ミクロレベルでは債権回収手段となるが、マクロレベルでは持出しになるというような状況。

私には、グラミン銀行の説明がスッキリします。勿論、私の8月22日のエントリーで書いたグレーゾーン金利が日本に存在するので、生命保険も日本はややこしくなっていますが。

なお、生命保険が被保険者の承認を要するとしている商法第674条第1項と貸金業制度等に関する懇談会における消費者信用団体生命保険についての事務局の説明を続きを読むに入れておきます。それから、住友軽金属事件の最高裁判決文はここにあります。

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サラ金はノーベル賞に値する

バングラデシュのユヌスさんとユヌスさんが運営するグラミン銀行が2006年のノーベル平和賞を受賞することとなりました。バングラデシュで初のノーベル賞受賞です。

先ずは、関連の新聞記事を以下に並べます。(NY Times, Washington Post, LA Timesは登録をしていないと開かないかも知れません。)

日経 : ノーベル平和賞に経済学者ユヌス氏とグラミン銀行

朝日 : ノーベル平和賞、ムハマド・ユヌス氏に 貧困解消に尽力

産経 : ユヌス氏にノーベル平和賞 バングラデシュの経済学者

毎日 : <ノーベル平和賞>バングラデシュのグラミン銀行と総裁に

読売 : ノーベル平和賞、ユヌス氏とグラミン銀行…貧困撲滅で

東京 : ノーベル平和賞 救貧銀行と創設者に

バングラデシュThe New Nation(英語)Nation celebrates first Nobel Prize: Settle issues amicably, Yunus urges parties

インドThe Hindu(英語)Yunus says Bangladesh's new found unity must extend to political arena

パキスタンDawn(英語)Banker to the poor gets Peace Nobel

ロイター(英語)WITNESS-Bangladeshi Nobel Prize surprise confounds prediction

米Washington Post - Micro-Credit Pioneer Wins Peace Prize

米New York Times - Peace Prize to Pioneer of Loans to Poor No Bank Would Touch

米Los Angels Times - Peace Prize to Yunus, Grameen Bank for Micro Loans

「おめでとうございます。」と申し上げます。でも、ロイターの記事が書いているように、実は予想外だったんですね。例えば、この毎日新聞の記事は別の人を書いています。

バングラデシュは、その国土が14万平方キロメートルの広さで、日本の38%位、北海道の1.8倍位の面積ですが人口が1億4千万人程度です。南が海ですが、東の一部がミャンマーと国境を接している以外は、全てインドと国境を接しています。例えば、旧日本軍の作戦の西の端インパールはバングラデシュの東でミャンマーより西のインドです。

国土は、ミャンマーと接している地域以外はほとんどが平らで、ガンジス川やブラマプトラ川といった大河が海に流れ込む国です。だから、上流(主としてインド)に降った雨で洪水が発生する国です。

貧しい国であり、貧困生活を送っている人が多い国です。世銀の資料によれば、1日2ドル以下で生活している人が82.8%です。アジアの最貧国で、例えば同じ様な国を世界で探すとアフリカのナイジェリアです。ナイジェリアは人口1億4千万人で90.8%が1日2ドル以下の生活。私も、ダッカに行ったことがありますが、交差点毎に乞食集団がいて。それも小さな女の子が多いんです。道路の中央分離帯の茂みにお母さんか乞食集団の現場責任者かがいてといった感じです。

ユヌスさんが偉いと思うのは、お金を借りることが出来ない人の為のマイクロ・クレジットというお金を借りる仕組みを作ったことです。制度ではなく仕組みなのです。即ち、単に貧しい人にお金を恵むだけだったらお金が続く限りは可能です。昔から、それはあったわけで、一方、生活保護みたいな制度もバングラデシュ政府にそんな財政能力はないので期待できない。貧困から抜け出すには、資金が必要である。かけ声だけでは、貧困をなくすことは出来ない。

グラミン銀行のウェブはここにあります。貸付金等の残高は、本年8月末現在で319億タカ(552億円)で、8月中の貸付実行額は48億タカ(83億円)で、返済回収高は47億タカ(81億円)です。グラミン銀行の説明がウェブに色々ありますが、面白いんです。その中のIs Grameen Bank Different?で次のようなことを言っています。

「普通の銀行とは逆の銀行です。お金を借りることは人としての権利である。だから、借りれない人に貸します。借りた人の能力が返済原資です。グラミン銀行の所有者は金持ち(ほとんどは男)ではなく、貧しい女性です。」

総資産446億タカ(772億円)のうちの10%が資本であり、この資本の94%が借入人で、一方、負債についても203億タカ(351億円)が借入人による預金で、115億タカ(199億円)が借入人以外による預金です。そして、この借入人の97%が女性と言うわけです。サラ金生協みたいな感じです。貧困層の女性の地位は低い。貧困から抜け出すには貧困層の最下層の人を助けなくてはならないという発想であると同時にその中で貸付により最貧状態から抜け出すのを手助けしましょうと言うわけです。

普通に考えると机上の空論で、すぐに倒産しそうですが、貸倒率は1.15%と言っています。教育ローンや住宅ローンもあるのですが、乞食ローンと言うのもあり、乞食にも一定額を無利子貸し付けするのです。世銀、アジア開発銀行、その他の援助機関もCGAP(The Consultative Group to Assist the Poor -ウェブはここ)という組織を作りマイクロ・ファイナンスを途上国に広めようとしています。日本は、国際協力銀行が入っています。

2000年9月に国連で採択されたミレニアム開発目標というのがあるのですが、その8つの主要目標の1番目(極度の貧困と飢餓の撲滅)と3番目(ジェンダー平等推進と女性の地位向上)に取り組んでいるノーベル賞に値する仕事だと思います。

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2006年10月14日 (土)

救急医療ーどうなるの

川崎市と川久保夫妻(報道では実名となっていませんが、このエントリーの中のリンクで実名がでてくるので実名を使います。)との間で同夫妻の長男(当時3歳)がこんにゃくゼリー窒息により川崎市が夫妻に3百万円の和解金を支払うことで10月13日に和解が成立したとのニュースがありました。

毎日新聞 : 3歳児窒息死:救急搬送受け入れ拒否…川崎市と両親が和解

朝日新聞 : 死亡幼児遺族 川崎市と和解

産経新聞 : 長男の窒息死で川崎市立川崎病院と和解

私が知っている限りの情報では次のような事件です。

2003年8月7日午前9時半頃に長男(当時3歳)がこんにゃくゼリーを、のどに詰まらせ意識を失った。救急車を呼んだ。救急隊はこんにゃくゼリーを取り除いて気道を確保した。しかし、心肺停止状態であった。川崎市立病院に受け入れ要請を行うが、当時川崎市立病院には熱性けいれんの患者がおり、蘇生に必要な酸素を送る設備が足りないので受入が出来ないと断った。他の5病院にも断られ、最終的に川崎市立病院が受入を決定した。(この間12分経過。心臓マッサージ継続。)しかし、蘇生せず午後7時に死亡した。

両親は1年と少し経過した2004年11月26日に横浜地方裁判所川崎支部に損害賠償請求訴訟を提起した。

救急患者が同時に重なることはあります。そんなとき病院はどうするか。どうすべきか。先行優先で悪いのか。二兎を追うことが正しいのか。救急医療とは、どうあるべきか。医療が助けることが出来ないこともある。

実は、恐ろしいのは救急医療でも医療崩壊が始まっていることです。過酷な勤務であると同時に、二兎を追え、三兎を追えと医師は攻められるから、医師が逃げ出している分野です。救急医療を閉鎖した病院もあります。ビジネスの言葉を使えば、リスクが大きすぎる。

3百万円の和解金が結果としてどうなるのか、更に救急医療を崩壊に向かわせるのか分からないのですが、川崎市が何故3百万円の和解を行ったのかは、横浜地方裁判所が和解勧告を行ったからです。ここに川崎市議会の議案第135号がありますが、「裁判所から職権による強い和解勧告がなされた」と書いてあります。

裁判所とは、世の中の正義のために存在するとは限らない。訴訟された事件が解決されれば、良い。司法に限界は存在するのですが、その限界を知らせしめてくれている事件かも知れません。断った他の5病院について、どのような事情があったのかは、知りません。他の5病院については、訴訟にはなっていないと理解します。

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追記:

本年4月1日から川崎市立病院は重症救急患者を24時間体制で受け入れる三次救急医療施設の指定となりました。この事故があったときは、三次救急医療施設ではなかった。ところで、初期(一次)、二次、三次の救急医療施設の違いは、続きを読むを読んで下さい。神奈川県の記者発表はこれです。

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プロも判断誤る秋の空

一週間前の10月6日の関東地方は雨でした。一週間前のエントリーとはふざけた話しだとなるでしょうが、朝日新聞のこの記事なぜ海、山が荒れたのか プロも判断誤る秋の空のタイトルを拝借してこのエントリーとしました。

さて、関東地方の雨ですが、次のグラフが10月5日から10日までの毎日の降水量で、秩父と勝浦では10月6日は200mmでした。

2006oct

そこで、川の流れを見てみたのです。利根川と荒川とでは、利根川の水位上昇の方が大きかったのですね。次の図は、利根川について栗橋と取手、荒川について西新井での水位をあらわしたものです。指定水位というのは、水防管理団体(市町村)が、水防活動に入る準備をする水位で、栗橋では少し指定水位を超えていました。

2006octriver_1

そこで今度はダムを見てみます。日航機が墜落した御巣鷹の尾根を水源とする利根川の支流である神流川に下久保ダムというのがあるのです。所在地は藤岡市で、Yahoo地図ではここをクリックになります。 下久保ダムの10月4日から10月11日にかけての貯水量、流入水量、流出水量をグラフにしたのが以下の図です。

2006oct_2

下久保ダムは10月4日の水位は280.3mでしたが、11日には296.5mとなり貯水量は77百万立方メートルから119百万立方メートルへと増加し、42百万立方メートルを貯水した。即ち、下流に42百万立方メートルの水を流さないようにした。もし、流していたら利根川に河川水位の上昇は大きかったはずです。

そう考えたなら、当たり前かも知れませんが、下久保ダムは洪水緩和の機能を果たしたと私は考えます。1968年完成で、下久保ダム建設により310世帯(773棟)が水没・移転しているのです。ダムは自然の変更そして時には破壊、また住民移転のような社会的な影響を与え、必ず負のインパクトを持っていると思います。負のインパクトとダムから得られる利益を正確に見極めて建設する必要がある。この10月の雨では下久保ダムは、ある働きをしたと思います。

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2006年10月13日 (金)

尾鷲総合病院ー産婦人科継続

尾鷲総合病院の産婦人科は継続することになったと報道がありました。

伊勢新聞 : 産科医2人が着任 市立尾鷲総合病院 休診なく存続へ

中日新聞 : 尾鷲病院の産婦人科医確保-市長、奨励金の有効性訴える

ということで、尾鷲市の人々(特に妊婦の方々)にとって一安心ではないかと思うのです。

以前、9月3日の産科崩壊(その3)-尾鷲市が産科医不在にと9月17日の産科医師-尾鷲総合病院 の2回のエントリーで取り上げていたことから、継続になったことを報告します。後任の産科医のうちの一人の医師は来年の4月に着任となるようですが、それでもいるといないでは全く違うと思います。

本日NHKは”地域発 金曜特集「医師が足りない~崩壊する地域医療体制~」”という番組の中で尾鷲総合病院の産婦人科継続のことを取り上げていたのですが、尾鷲総合病院のことだけではなく、全てでしょうが問題を正面から取り上げていないように感じました。特に、コメントを付すにあたって。例えば、尾鷲市の財政が6千万円の医師の報酬のために苦しくなるが、正当化されるかとの言い方です。そう言う面はあるでしょう。しかし、本質は何が問題であるかであり、このことについては、掘り下げていないように思うのです。

(NHKは報酬がいくらが妥当かなんてコメントできる程、この件を調査していないと思うのです。前任の医師のことは全く言及していませんでした。)

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2006年10月12日 (木)

官に政策あれば民に対策あり

「官に政策あれば民に対策あり」という言い回しを10月12日の朝日新聞の経済面のコラム経済気象台で読みました。

このニュアンスは、ある面では非常にあたっているのだなと感じたのです。官が法を改正し新たに法をつくり、民はそれを如何にうまく利用して利益を捻出しようかと努力をする。その鼬ごっこが続いており、鼬ごっこあるからこそ、社会は発展していく。

精神主義でルールを押しつけてはならないし、またお上の言うことを聞くべきだと、その時々のご都合主義でルールを変えてはならない。社会のルールは紙の上に書き、それを守ることによって社会が成り立つ。立法時に考えが及ばなかったこともある。人間が書いた文章だから、不十分な部分も沢山ある。法は、立法時の趣旨と離れて、その時代時代によって解釈が異なることさえもある。

でも、「官に政策あれば民に対策あり」について、私は少し違和感を覚える憶えたのである。法は、官(政府)が法案を作成するかも知れないが、立法は国会である。国会の議員を選出するのは選挙であり、国民であると言える。官がドラフトを作っても、官に全てを任せてはならない。法を改正して更に良い法に発展させていくのは国民である。国民がしっかりした国が重要であり、誇りにすることが出きる国なのだと思う。

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2006年10月11日 (水)

北朝鮮の核実験

ブログの更新が、ある仕事をしていて、それを良いことに怠けてしまった。

ブログを休んでいた間の一番大きな出来事は、やはり昨日の北朝鮮の核実験であると考えるので、北朝鮮の核実験について、思うところ感じるところを書いてみます。

(1)予期された核実験

北朝鮮は突然核実験をしたのではなく、以前から核兵器保有を目指していたはずです。米国と北朝鮮の間で北朝鮮は核兵器開発を凍結する、その代わりに米国は原子力発電所(軽水炉)を提供するとの合意が成立したのは1994年です。例えば、この英語のWikipediaにあります。

しかし、2002年11月に「米国から重油供給がなされず、米国が1994年の合意事項に違反した。核兵器開発を開始する。」と北朝鮮は発表したのです。例えば、このCNNのニュース(英語)を見て下さい。2002年12月北朝鮮は国連の原子力監視員に出国を求めました。

核兵器を食料、燃料、安全その他色々な物と交換するための手段として保有しようとしていたと思います。

(2)怖い物なしの北朝鮮

TVで、街行く人がインタビューに答えて「強い経済制裁」と多くの人が言っておられました。でも、経済制裁をしても、北朝鮮にはほとんど影響がないと思うのです。これ以上、貧しくなりようがない位貧しいと想像するのです。中国とは少し貿易もあり、中国からの援助もあるかも知れません。でも、ほとんど鎖国に近い状態で、私はもしかしたら北朝鮮の外貨収入のトップは日本向けの麻薬だったりするのではと思うのです。麻薬なんて経済制裁の対象とならないのですから、何故なら既に禁制品で手を出すのは違法行為であり暴力団だけなのですから。

米国がマカオの銀行口座を北朝鮮に利用させないように凍結したことがありました。これも、取引金額からすればほんの少額で北朝鮮にとっては、蚊が鳴くようなものだったのではと思うのです。

(3)核実験後の動き

北朝鮮が核実験後どうなるか私もよく分からないのですが、おそらく北朝鮮を含む世界各国の動きを見て参考にするのが、イランだろうと思うのです。米ブッシュ大統領はイラク、イラン、北朝鮮の3ヶ国を悪の枢軸国と名指ししたのです。言ってみれば、米国の敵国です。イラクは米国に攻められた。イランと北朝鮮は残っています。イランが核兵器を保有しているかどうか私には判りませんが、可能性はあると思います。

イランは北朝鮮の今回の核実験の後の各国の動きを必ず、参考にすると思います。イランの強みは、原油も天然ガスも埋蔵量が世界第2位なのです。米国も武力でイランを操ることは出来ないはずです。イラクが、それを証明したと思います。

(4)最悪のシナリオ

日本人にとっては、北朝鮮が日本に核弾頭を搭載したミサイルで攻撃してくることでしょう。でも、その可能性は私は低いと思うのです。何故なら、それで北朝鮮が得る物はなく、逆に世界を敵にして自国を攻撃され占領されることになると思うからです。そこまでのことを出来る北朝鮮政府だとは私は思わないのです。

では、最悪のシナリオは何かというと核兵器をオサマ・ビン・ラディン達アルカイダ一派に売ることです。日本の暴力団に麻薬を売る国です。キム・ジョンイル(金正日)が、どこまで統制力を持っているのか私は判りません。北朝鮮のある一派が、核兵器をアルカイダに売却なんて、そんなことが生じたら、恐ろしいことが現実になると思うのです。

死を恐れず、神の為に死ぬことが至福であるなら、最早何でもありです。でも、アルカイダが核攻撃をする相手は、多分日本ではないだろうと思うのです。米国の象徴的な都市。もし、それが警備が厳しくて実現が難しそうであれば、隣国からねらえるイスラエルの可能性が高いのではと思うのです。

(5)核保有国

もっとも北朝鮮は核実験をしたと言っているが、未だ本当かどうかは確認されていない。しかし、核兵器保有国と考えて良いはずで、そうなると現在の核保有国は、

米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の9ヶ国

21世紀の問題は、核保有国が増加することへの対処ではないかと思うのです。5ヶ国に絞った核兵器保有国が幻想となりつつあるときどうするのか、大きな課題と思います。

(6)キム・ジョンイル(金正日)

キム・ジョンイル(金正日)は、けしからんと思っている人は多いと思います。でも、キム・ジョンイルがいなくなったら、北朝鮮はもっと大変な国になるかも知れない。金日成の息子であるから、政府組織が成り立っているとしたら、キム・ジョンイルがいなくなると軍事国家になってしまう、あるいは統制が採れていない破綻国家になってしまう恐れはないのだろうとかと思ってしまう。

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