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2006年10月26日 (木)

ストックオプション

ストックオプションの課税に関して10月24日最高裁が過少申告加算税賦課決定の税務署の処分を取り消す判決がありました。(判決文はここにあります。)この判決に関して、上告人の代理人であった鳥飼総合法律事務所がプレス・リリースを行っていますが、その文書はここにあります。

この事件は、それ程単純でない面を持っているので、以下に書いてみたいと思います。(単純な事件などないかも知れませんが)

(1) ストックオプションとは

東京証券取引所の用語説明がここにあります。例をあげると、会社が取締役に対して5-10年先に自社株を150で購入するオプションを与えます。(オプション付与時の株価は100とします。)でもオプションだから、この取締役は購入する義務はありません。だから、もし権利行使時期に株価が150以上であれば、購入するでしょう。もし、200で売却できれば50の利益となります。結果、ストックオプションを与えられた取締役は懸命に働いて業績を上げ、自社株の株価を上げようとする。株価が高くなれば、一般投資家もHappy、会社も資金調達が有利になりHappy、当然その取締役もHappyで皆Happyと言うわけです。

(2) ストックオプションを行使して株式を得た人の所得税

(1)の例で、権利行使をして取得した株価が170であったとします。これを150払って取得(オプション取得時は無償。株受領時に150)したのだから時価170との差20の利益を得ました。この20は、取締役の業務対価であると考えるのが妥当です。そこで、給与所得なのです。200で売却したら、株式譲渡所得が30得られたのであり、上場株を証券会社経由で売却したのなら30に対して所得税7%+地方税3%の税金を払います。

でもニュースには、一時所得という言葉が出てくるのは何故かです。ストックオプションは、日本では平成9年(1995年)6月施行の商法改正で可能となり、それまでは日本にストックオプションがなかったからなのです。(厳密には、平成7年の特定新規事業実施円滑化臨時措置法の改正により特定の株式未公開会社でストックオプションが可能となった。)でも株式の有利発行は、それ以前から存在していたのであり、株式の有利発行による差額の利益は一時所得と税務署は考えていたし、今でも役員、従業員のその業務・勤務・労働の対価として取得する場合ではない株式有利発行の利益は多くの場合一時所得です。(参考:所得税基本通達23~35共-6)(要は、取得の原因が何によるかで、各種所得のどれに該当するかです。)

給与所得と一時所得は所得税法では次のように規定されています。なお、一時所得は一時の臨時的性格であるとして課税所得金額を求める際に2分の1にするので、税額としても約2分の1となります。(厳密には一時所得は50万円を控除した残額を2分の1。給与所得は金額が大きい場合でも5%は給与所得控除が適用される。)

第28条①  給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
第34条①
 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。

(3) この事件の人達の所得

平成9年以前に日本に制度はなかったが、外国にはあった。この事件のケースは米マイクロソフトやデル、コンパック、シスコシステムズの日本法人元役員ら7人であり、役員就任を受けた会社ではなく、その親会社のストックオプションを得たのである。そして、東京国税局直税部長が監修、所得税課長編集で(財)大蔵財務協会が発行した「回答事例による所得税質疑応答集」において平成6年版まで「ストックオプションが給与等に代えて付与されたと認められるとき以外は一時所得として課税される。」と書いてあったからややこしいのである。”以外は”との表現であるから、この文章も相当読みにくいのであるが。

最終決着はこの平成17年1月25日の最高裁判決(要旨)で、やはり給与所得であるとされた。

(4) 10月24日最高裁判決

10月24日の判決は税務署の過少申告加算税賦課処分を取り消したものです。過少申告加算税賦課処分とは、期限までに申告と納税があったが、正規の税額より小さかった場合に、税務署は追加の税納付(及び修正申告)を求めると共に追加税額に過少申告加算税を賦課したと言うわけです。

これまた、ややこしいのは問題となっている所得は平成8年、9年、10年と11年の4年分でいずれの年もそれぞれの申告期限である翌年の3月15日までに申告納付がなされた。これに対し、税務署が平成12年3月10日に給与所得であるとして増額更正をした。11年分は12年3月15日に一時所得として所得税の申告を行い、税務署は13年3月12日に増額更正と過少申告加算税賦課決定をしたのです。それまでも、税務署と納税者との間でやりとりがあったのかも知れませんが、平成13年に訴訟となったのです。

裁判の結果は、(3)の最高裁判決の通り給与所得税ですが、今回の裁判で確定したのは過少申告加算税賦課は行き過ぎであるから、過少申告加算税賦課を取り消すと言うことです。

ところで、いくら位の金額の話しをしているかというと、日経は7人で総額約2億6000万円と報道していることから、10%が過少申告加算税の税率であるとすると増額更正の税額が約26億円であり、7人で税総額は50億円を超えると言うことです。所得の金額に換算すると7人全員を合計すると100億円を超えると言うことでしょうか?15%が税率であるとしても、34億円位の税額になるから所得金額はやはり100億円程度です。最も、朝日新聞は「7人の過少申告加算税額は、約2億1000万円(2年分)~34万円(1年分)だった。」と書いているので、人によって差はあります。ちなみに、対象となった期間の所得金額はあるデータから見るとA氏3.6億円、B氏16.3億円、C氏2億円、D氏6.6億円、E氏1.9億円となるので、所得金額は普通の人から見れば相当の高額です。ちなみに2000年(平成12年)8月23日当時の報道ではマイクロソフト日本のみで150人、70億円の申告漏れという報道でした。

(5) 企業にとってのストックオプションの経理・税務

従来企業側は、ストックオプションを与えた場合に、自己株式をストックオプション実行に備えて取得し、これを取得価額で自己株式として帳簿に載せ、実行された際に取得価額と実行価額の差を、損失であれば自己株式処分差損、プラスであれば自己株式処分差益として処理していました。貸借対照表、損益計算書の扱いが平成9年以降でも何度か変更となり、それにより法人税法上の益金・損金の扱いも変わっているので本年5月の会社法施行前については省略します。

企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」が企業会計基準委員会より公表されており会社法施行日(2006年5月1日)以後適用となります。その結果、ストックオプションは譲渡不可能ではあるが一種のデリバティブであり、適正額を人件費認識することになりました。例えば、ストックオプション付与時の株価が100でこれを150で購入できるオプションは、150以上に高くなる可能性がある以上はその価値はゼロではなく、何らかの正当な価値を持っていると考え、この価値相当分を人件費とし、人件費/新株予約権という仕訳で、人件費の認識をすべきと言う考え方です。なお、一時に人件費として認識するのではなく、付与日から権利確定日(行使可能期間の初日)まで、期間案分します。

ストックオプションの価値をどのように評価するのかという大問題があります。ウェブを見ると色々なところが売り込みをしています。なお、企業会計基準第8号が制定されるに至った背景には、2005年1月のIFRS(国際会計基準審議会-Internatioal Financial Reporting Standard)基準2号-Share Based PaymentやFASB(米国財務会計基準審議会-Financial Accounting Standard Boad)基準123号-Share-Based Payment(2004年改正)がそれぞれ2005年1月1日、2006年1月1日以後に開始する会計期間から適用されることがあり、国際的な会計基準の統一ということがあります。

企業税務では、2006年5月1日以前(余り前だと違いますが)迄は、自己株式処分差損益は資本積立金(法人税の用語であり、会計用語では資本剰余金に相当します。)を増減させるだけであったので、税への影響はありませんでした。2006年5月1日以後は、法人税法が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」としていることから、企業会計基準第8号をフォローするのだと私は思います。しかし、ストックオプションの価値評価を故意に高くすれば、人件費が多くなり税額計算の元となる企業所得を下げ、税を減らすことが可能となるから、ストックオプションの価値評価については何か基準が出来るのではと思います。

(6) 報道

私はNHK TVのニュースで報道していたのを見ました。でも、誤解を与える内容と感じました。(私でも混乱を感じましたぐらいで、予備知識のない多くの方が見られたら誤解があるだろうと。)

新聞の方が、未だ正確です。

それと報道の姿勢に「悪の税務署に裁判で勝った。」という雰囲気を感じてしまったのです。「不当な過少申告加算税は否定された。」と言うのが今回の裁判です。税はその課税基準が公平であると共に税徴収も公平でなければなりません。税法の適正な執行と徴収がないとすれば、馬鹿馬鹿しくて税なんて誰も払おうとしないはずです。税の公平という基準に立って、税は考えるべきと思いました。

参考に、各社の報道を以下に並べます。なお、NHKはリンク先が既に消滅しているため、続きを読むに文章を入れておきます。

日経-ストックオプション、加算税賦課は違法・最高裁判決
朝日-ストックオプション「加算税は違法」 最高裁判決
毎日-ストックオプション訴訟:過少申告加算税は不当 最高裁2審破棄、国税の一部敗訴確定
読売-自社株購入権、最高裁が加算税課税認めず…国税が敗訴
産経-過少申告加算税取り消し 最高裁 ストックオプション訴訟
日テレ-ストックオプション上告審 国税側が敗訴
TV朝日-ストックオプションで得た利益は何税?最高裁判決
NHK-続きを読むにあります。

TVは、限られた時間内での報道だから衝撃的な内容になりがちなのでしょうが、やはり製作側には限られた時間でも誤解を与えない正確な報道をするように望みたいものです。(バラエティーは得意でも真実の報道はTV局には難しいのでしょうか?大淀病院事件もそうでしたが)

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(NHK)

ストックオプションは、社員や役員などへの報酬として会社の株をあらかじめ決めておいた価格で買う権利を与える制度です。原告の外資系企業の役員など7人は、平成9年から13年に得たストックオプションによる利益を税率の低い「一時所得」として申告しましたが、税務署側がより税率が高い「給与所得」にすべきだとして過少申告加算税を上乗せしたため、不当だと訴えていました。最高裁判所第3小法廷は判決で、「税務署側もかつては『一時所得』として扱っていたが、そのあと『給与所得』に方針を変えた。それなのに方針の変更について一般の人向けに周知しなかったのだから、一時所得として申告した納税者を責めることはできない」と指摘し、税金を10%から15%上乗せした過少申告加算税を取り消しました。判決は、納税者が知らないうちに課税の方針を変えてペナルティーを課した税務署側の対応を批判するものになりました。判決について、原告の1人の男性は「最高裁判所は納税者に良心を示してくれた。法令を改正せず、一般の人に周知もせずに課税方法を変えるのは望ましくないという判決だ。今回の判決によって、今後、行政当局が裁量だけで課税することはなくなるのではないかと期待している」と話していました。一方、税務署側は「主張が認められず残念だ。判決を謙虚に受け止め、今後とも適正な課税の実現に向けて努力していきたい」というコメントを出しました。

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