長期生活資金貸付制度
貸金業の規制についての検討は現在進行形でしょうが、9月6日のエントリーの(3)生活福祉資金の貸付でも書いたモーゲージ・ローンについて書いてみます。
1) モーゲージ・ローンとは
モーゲージ・ローンとは不動産担保貸付です。個人向けのモーゲージ・ローンだったら、住宅貸付金だから、ほとんどの人がマンションや家を購入するにあたって利用しています。米国の場合だったら、自分が住んでいる家を担保に生活費に充てるために借入を行う。そもそもレイオフ(解雇)なんて当たり前の社会だから、高収入が得られたときに高級住宅を購入する、レイオフになったら、或いは自分から止めたら、グレードを落として別の家に住めばよいという文化・社会だから住宅の担保価値もそれなりにある。
日本では、住宅の担保価値は低い。何故なら居住している人を追い出すことが容易ではないから。でも、マンションなんて中古市場が活発に動いて、世の中は変わってきていると思うのです。
いずれにせよ、モーゲージ・ローンだったら、担保があるのであり、無担保サラ金ローンより低金利で月々の返済額も少額の長期融資が可能であろうし、そうでなくては意味がないと思う。消費者金融業と呼ばれている業者だけでなく一般銀行も参加して良い意味での競争により低金利融資マーケットが形成されて欲しいと思う。
一方、収入が無ければいくら利息が安かろうが、返済は出来ない。サラ金業者のCMですが、「無理な借り入れにご注意を。ストップ!借りすぎ」で、返済資金の目途がないにも拘わらず借入をするのは無茶です。
2) 長期生活支援資金貸付制度
「65歳以上で低所得の人を対象とし、低金利で700万円以上貸し付けてくれるローンです。」が、少し解説が必要です。以下をご覧下さい。なお、厚生労働省のWebはここです。
- 借入人が65歳以上であることと同時に、同居している配偶者も65歳以上であることです。
- 居住土地の評価額が1000万円以上あることです。(貸付金額が土地の評価額の概ね70%となります。)
- 土地、住居は借入人の所有であり、抵当権等の担保が設定されていないこと。
- 担保として、土地、住居の抵当権と推定相続人が連帯保証人となること。
- 低所得であること。(住民税が非課税であること。)
- 利率は年3%又は銀行の長期プライムレートのどちらか低い利率
長期生活資金の貸付者は都道府県の社会福祉協議会で、申請の窓口は市町村の社会福祉協議会となります。
3) 住民税の非課税
収入がいくらで非課税になるかというと、65歳以上で年金のみの収入の場合では、年間収入222万円以下の場合に、所得割は非課税となり、更に210万円程度になると均等割りも非課税となります。(均等割り非課税額は居住地により少し金額が異なる。)なお、配偶者は老齢基礎年金のみの収入(年金額79.2万円)のみで、控除対象配偶者になると想定しています。夫婦二人の合計年間収入300万円がボーダーラインという感じです。
自営業で、商店なんかをされていた方であれば、商店の収入も少し継続している可能性はありますが、年金による世帯収入は158万円ですから、高齢者では住民税は非課税の方も多いのではと思います。
4) 生活保護
いくらの収入以下であると生活保護が受給できるかというと、地域により異なるのですが、ボーダーラインの高い1級地-1と低い3級地-2の場合の夫婦二人の場合の金額は次の通りです。(年齢は69歳とします。)
1級地-1: 120,270円(月額)、即ち144万円(年額)
3級地-2: 93,210円(月額)、即ち112万円(年額)
なお、持ち家であるとして住宅扶助は計算に入れていません。また、医療扶助、介護扶助を計算に入れていないので上記以外に受給できます。但し、年金を受給していれば、差額なので100万円年金収入があれば、44万円、12万円が生活保護で受給できる金額となります。
生活保護を受けるには、普通程度の住居用土地家屋を保有することは認められるが、資産、能力等すべてを活用した上でも、生活に困窮する者が対象であることから、預金は最低限を残した後、保険は解約した後、資産は売却した後です。従い、生活保護を受けることはつらいものがあります。
参考までに、これが厚生労働省の生活保護制度の概要です。
5) 扶養義務
民法に扶養義務が規定されています。配偶者と3世代上の直接の親(曾祖父母迄)、3世代下の直接の子(曾孫迄)と兄弟姉妹です。少し前までは、家が生活の中心で扶養義務なんて当たり前ということでした。農業であれば、田畑は自分が手に入れたのではなく、親、祖父母から引き継いだ資産であり、それにより収入を得ていたから、扶養なんて当然だったんです。
現在は、親の面倒を見るのにも金銭的余裕のない人も沢山います。無理矢理扶養義務の実行を迫るのは難しいのが実状です。一方、生活保護費は税金からの支出であり、扶養義務を不問にして保護を与えることは出来ない。非常に単純ではないところですが、必要としている人には憲法と法の精神に従い給付すべきです。
実体としては、生活保護の世帯や人員の数は増加しています。次のグラフは厚生労働省の数字を表したものです。
上のグラフを、年代別に表したのが下のグラフです。60歳代以上の年齢層では保護率が大きいのです。
扶養義務を言いましたが、扶養義務と密接に関係するのが、相続です。配偶者と子(子が死亡している場合は、その子孫)、子がいない場合は親、そして親も死亡している場合は兄弟姉妹が相続人ですから、扶養義務者と基本的に重なります。
6) 長期生活資金の貸付利用のおすすめ
住民税非課税限度以上の収入がある人については、大きな問題はないとして、それ以下の収入の人にとっては長期生活資金の制度は魅力的だと思うのです。その理由は。
- 利子率が年3%以下であることから、魅力的。
- 制度上は最大貸付実行額が1月30万円以内であるが、最大額の借入をする必要はなく、最適額の借入とすればよい。
- 扶養義務者に無理な負担を強要しなくて良い。(相続されるであろう住宅とその土地が返済のために処分せざるを得ないかも知れなく相続と扶養義務との選択となる可能性があるが、選択権は扶養義務者(推定相続人)にある。
- 生活保護の受給のように資産の処分義務はない。
一方、制度としての観点から見ても、長期生活資金の利用にあたっては、民生委員の紹介も受けることから、長期生活資金のローンが利用限度額一杯になっても生活保護にスムースに移行できると考えられる。無理な生活保護の拒絶や不正受給を無くすることにもつながると私は思う。更には、現状であると、扶養を受けられないから、生活保護となるにも拘わらず、住宅の保有は合理的な範囲で認められていることから、受給者が死亡するとその財産は扶養を果たさなかった扶養義務者に相続される。
理由があるから扶養できなかったはず。しかし、生活保護の受給は相続の権利に影響を及ぼさないから、相続が生じるのは当然である。
7) 今後の制度改革
長期生活資金の利用について社会福祉協議会に問い合わせてみたのだが、現実には少ないとのことである。その理由としては、評価額1000万円以上の土地を保有している人が少ないからと言うことである。特に、地方ではそんな土地を保有している低所得の方がほとんどおられないとのことである。一方、都会でもマンションは対象外であり、仮に一戸建てであっても住宅ローンを返済済みで抵当権が残っていない場合となる。
現状では間口は相当狭いのである。高齢化社会を向かえ、高齢者の低所得者に対して低利融資の制度を提供することは必要と考える。その為には、リバースモーゲージローンと呼ばれている長期生活資金貸付制度を利用の容易な形、ニーズにあった形に改革することが必要と思う。話題になっている消費者金融のグレーゾーン金利とは、出資法の上限利率(年利29.2%)と利息制限法の20%程度の利率との差についての話しである。それはそれで重要であるが、収入が低い高齢者については、低利長期の長期生活資金貸付制度の充実等で対処することが必要と考える。
長期生活資金貸付制度は、グレーゾーン金利について検討している金融庁ではなく、厚生労働省であるが、貸金業の改革にあわせて検討して欲しいと思う。
蛇足となるが、年金制度の根本問題(保険料を払わなくて、年金が受給できなくても、それより金額の大きいかも知れない生活保護を受給できる。)についても合理的で無理のない改革をして欲しいものと思う。
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