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2006年10月24日 (火)

良いサマリア人法

医療関係を続けます。良いサマリア人をご存じですか?(ルカによる福音書10章29節~37節に出てくる良いサマリア人です。続きを読むにルカによる福音書10章29節~37節の部分を参考として掲載しました。)

(1) 機内緊急放送

あなたは医師であったとします。用があってパリに行っていました。帰国の飛行機は日本航空406便、パリ発18時05分、成田着14時00分)でした。飛行機は定刻通り、シャルルドゴール空港を離陸。離陸後2時間ほどして、食事が終わりかけようとしていた時に機内放送がありました。

「ただ今、突然具合の悪くなられたお客さまがおられます。お医者様、看護師の方はおられませんか?」

さあどうしますか?名乗り出るか、ダンマリでいるか。大淀病院事件を報じているマスコミだったら、ダンマリでいたら、無茶苦茶たたかれるでしょうね。でも、医療機材は飛行機に装備してある物だけだし。自分の専門外の分野であれば的確な診断は出来ないし。所詮治療なんて出来ないだろう。注射をするにしても気圧が低いから、いつもとは少し違う。患者を助けるには緊急着陸をしての救急医療が必要かの判断が重要かも知れない。丁度今サントペテルブルグ上空を飛行中。間もなくシベリアだし、時間も深夜となる。緊急着陸をしたら、到着時間の遅れは生じるし、航空会社の費用負担も多大だし、乗客にも迷惑を掛ける。もし、名乗り出て何もできなかったら、もし診断を間違ったら、今のマスコミだったらもっと厳しい非難を投げつけてくるかも知れません。

この資料-航空機内での救急医療援助に関する医師の意識調査~よきサマリア人の法は必要か?~ によれば、アンケート結果はドクターコールに遭遇したら申し出ると回答した医師は41.8%(28名),その時にならないとわからないと回答した医師は49.2%(33名),申し出ないと回答した医師は7.5%(5名),その他1.5%(1名)であった。

(2) 良いサマリア人法

米国の各州には良いサマリア人法(Good Samaritan Act)があります。ここに各州の良いサマリア人法の該当条文番号があります。一つの法があるのではなく、ある法に条文を追加しており、リンク先が出てきます。

これらの良いサマリア人法は、緊急の場合に病人やけが人の救助に無報酬で従事する医師等の民事責任の免責(故意または重過失を除く)を規定しており、州によっては一般人も免責の対象としています。例えば、カリフォルニア州の次の規定です。

No licensee, who in good faith renders emergency care at the scene of an emergency, shall be liable for any civil damages as a result of any acts or omissions by such person in rendering the emergency care.

(3) 日本では

日本には良いサマリア人法がありません。従い、民法の事務管理による権利義務が発生します。民法第698条(緊急事務管理)は次のように規定しています。

管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

しかし、この698条は医療行為を想定したものではなく、一般的な条文です。例えば、台風が近づいてきているが隣家は空き家である。親切で補強してあげたと言ったケースです。民法の事務管理は、『他人の事務を管理する義務はない(行き倒れの人を助ける義務は民法上は存在しない)。しかし、ひとたび他人の事務の管理を始めた以上は、依頼された場合と同様に責任を持って事務にあたらなければならない。その代わり、その費用は償還される』と言っているとも考えられます。

医師法第19条第1項は次のように規定しています。

診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

但し、たまたま乗客として乗り合わせていた医師が診療に従事する医師と言うには、無理があると思うし、また機内放送が特定の乗客(医師)になされたものでないことから診察治療の求と言えるのかと考え、私は医師の義務は発生していないと考えます。しかし、名乗り出たらどうなのでしょう。医師法を初め様々な義務が医師に発生しないでしょうか。

日本航空と全日空は、上記(1)の資料によれば「JALとANAは紛争が生じた際に弁護士費用まで含めて医師を保護する方針を公表している。」と記載あることから、航空会社の責任として医師に医療過誤訴訟が生じたとしても対処する方針と理解します。(両社への確認はしておりません。)

(4) 秋田県救急救命士の書類送検事件

2005年3月25日患者を搬送中に救命救急師が除細動器を使用しました。除細動器というのは、この東京消防庁がAEDの講習が始まりました!-平成16年7月から一般市民も行うことができるようになったAED(自動体外式除細動器)と言っているこの除細動器なのですが、少し違うのは自動(Automatic)でない手動除細動器だったのです。実は、救急車は自動除細動器も設置されていたのですが、故障で使えなかったのです。そこで、救命救急師は手動で操作する除細動器を病院に到着するまでの間使用して心臓蘇生に努めたのです。病院到着後も病院の医師がすぐに患者に対応できない状況だったということで、医師が対応できるまでの間継続したと思います。

でも、手動除細動器は医師にしか使用は認められないと秋田県警は医師法違反でこの救命救急師を2005年7月4日に書類送検したのです。秋田地検は8月31日起訴猶予としました。2005年9月1日の共同通信のニュースは以下でした。

「除細動必要だった」 機器使用の救命士起訴猶予

記事:共同通信社 【2005年9月1日】

 秋田地検大館支部は31日、医師しか使用してはいけない除細動器を患者に使ったとして、医師法違反の疑いで書類送検された大館市消防署勤務の男性救急救命士(34)を起訴猶予とした。
 秋田地検は「患者は非常に危険な状態で、除細動しなければならない状況だった」とし、除細動器を使った救命士の判断が患者の遺族から感謝されていることも考慮したという。
 秋田地検などによると、救命士は今年3月25日、心室細動を起こし心肺停止状態となった男性患者を大館市の病院へ運んだ際、病院の医師がすぐに患者に対応できない状況だったため、違法行為と知っていて独断で手動式の除細動器を使用した。

 その後、医師が除細動器を再度使い、患者は一時心拍を再開したものの、間もなく死亡した。

 救急車には、心臓の動きを機械が解析し、電気ショックを与えるかどうかを表示する半自動式除細動器が備え付けられており、救命士は使おうとしたが作動しなかった。手動式除細動器の使用は医療行為に当たり、医師以外は使用できない。
 その後、半自動式除細動器のケーブルが断線していたことが判明し、輸入販売元が各地の消防本部に緊急点検を依頼した。

(5) 良いサマリア人法は日本にも必要と思うが

(4)の秋田県の救命救急師事件のこと、それに奈良の大淀病院事件、福島の大野病院事件、或いはこれ亀田病院事件ですが、医師のほとんどの方はトンデモ判決と言っておられます。千葉日報(本年9月12日)-高2男子死亡 病院に8150万円賠償命令:千葉地裁 カテーテルで血管損傷

「亀田病院はの亀田信介院長は「致死量のテオフィリン中毒のため救命できなかった。このような症例で医療機関に責任があると判断されては、日本の医療は荒廃する。直ちに控訴する」とのコメントを出した。」とのことであります。民事で、トンデモ判決が下される可能性はあるのです。

良いサマリア人法は、私は制定により不都合が生じることはないと思うのです。万一の時でも、医師から治療を受けたい。でも制定に向けての動きはそれ程大きくはありません。むしろ、大淀病院事件の様にマスコミは病院や医師を問題ありとしてたたいています。私の10月14日のエントリー”救急医療ーどうなるの”のこんにゃくゼリー事件も5病院で受入が出来なかったのですが、最終的に受入を行った川崎市立病院が悪者になっている感じです。

日本でもボランティアが推奨されるようになってきた。良いサマリア人が尊敬されて良いと思うのです。

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ルカによる福音書第10章29節~37節(新共同訳)

しかし、彼は自分を正当化しようとして、「では、わたしの隣人とはだれですか」と言った。
イエスはお答えになった。「ある人がエルサレムからエリコへ下って行く途中、追いはぎに襲われた。追いはぎはその人の服をはぎ取り、殴りつけ、半殺しにしたまま立ち去った。 ある祭司がたまたまその道を下って来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。同じように、レビ人もその場所にやって来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。ところが、旅をしていたあるサマリア人は、そばに来ると、その人を見て憐れに思い、近寄って傷に油とぶどう酒を注ぎ、包帯をして、自分のろばに乗せ、宿屋に連れて行って介抱した。そして、翌日になると、デナリオン銀貨二枚を取り出し、宿屋の主人に渡して言った。『この人を介抱してください。費用がもっとかかったら、帰りがけに払います。』 さて、あなたはこの三人の中で、だれが追いはぎに襲われた人の隣人になったと思うか。」
律法の専門家は言った。「その人を助けた人です。」そこで、イエスは言われた。「行って、あなたも同じようにしなさい。」

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コメント

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」
ぞっとする状況です。
昔から「知らん顔する」と決めていますが、その場になれば恐らく体が勝手に動いて医者仕様になるのでしょうね。
結果が悪けりゃ、診断は正確だったか、処置は適切だったのかと責められるのでしょうね。
命を助けて恨まれた経験もあります。
正直、もう辞めたい仕事です。
日光三猿バージョンが賢明のようです。

投稿: moomin | 2006年10月25日 (水) 11時55分

この記事へのコメントは終了しました。

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