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2006年11月27日 (月)

法人税の引き下げ

経団連が法人税率を30%に引き下げるべきとの提言を行っています。その提言はこの2006年9月19日の平成19年度税制改正に関する提言のなかの最初の「II.法人税制 1.実効税率の引き下げ」に書いてあるのですが、政府税制調査会の第1回企画会合(11月9日)資料その他を参照して経団連の提言について検討をしてみたいと思います。(本エントリーのグラフはクリックするとポップアップ・ウィンドーで開きます。)

1) 税収入が足らないのか、支出の節約が不十分なのか

支出に対して不足する額を国債により調達しているのが、現状です。次のグラフは政府税制調査会の資料からですが、日本政府の債務残高はGDPの175%とダントツ一番であることが判ります。

Kikaku1kai11_17_5

最近財政再建で話題になっている夕張市は、本年6月に「財政再建団体」の指定を総務省に申請する方針を市議会で明らかにしたのですが、債務残高が632 億円(2005 年度見込み)と標準財政規模45 億円(標準税収入額、普通地方交付税額、地方譲与税額の合計)の14 倍でした。日本において地方自治体の債務は政府が実質補填する制度になっていることから、夕張市はこんなに借金が可能であったのですが、日本政府が夕張市と同じ様な状態になれば大変です。

減税を言い出したときには、やはりその結果の収支見通し、債務予測等を同時に提出し、その是非を論じるべきと思います。一方的に減税効果のみを述べることはアンフェアである。私が経営者なら、一面だけの説明を行った提案は不十分であるとして突き返すかも知れません。

2) 日本の法人税率は高いか

経団連の提言は日本の法人税率が高いと述べているのですが、政府税制調査会の資料に次の国際比較があります。

Kikaku1kai11_27_1

日本の法人税率(都道府県及び市町村の地方税をあわせた税率)は40.69%としているので、米国カリフォルニアの40.75%やドイツの39.9%とほぼ同じです。英国、フランスは30%、33%と日本より低い税率ですが、税金が安いのか、政府支出が少ないのか、他の税目での課税が大きいのか、よく見ておく必要があります。例えば、ヨーロッパでは日本の消費税に相当する付加価値税の税率が、ドイツで16%、フランスで19.6%、英国で17.5%、デンマークやスウェーデンでは25%です。年金の税負担等考慮すべき事項は多く、比較は容易ではなく、単純ではありません。

経団連の提言はアジアと同等にとも言っています。例えば、タイの法人税率は30%であり、付加価値税率は7%。インドネシアは法人税率30%で、付加価値税率10%です。両国とも地方税がないので、日本より低い法人税率ではあるが、途上国が産業育成という政策上で採用している税率という側面があります。途上国においては、未だ資本が育っていない。だから、法人税率を低くして資本の育成を計るという面。外国からの投資を呼び込み自国の雇用を増加させるため、税率を低くして少しでも外国資本が自国に投資を行いやすいようにする面があります。従い、これも単純に日本と比較することは正しくないはずです。ちなみに、日本の税率の1980年からの推移は次の通りです。(この税率は地方税を含まない法人税のみの税率です。現行30%で、27.89%と異なっているのは、27.89%は、[27.89%=30.00%÷(1+0.0756)]の計算によるからで事業税率を7.56%として計算しているからです。)

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3) もし法人税率を20%とし、これを消費税でカバーしたなら

一体日本政府の租税収入がいくらかというと、平成17年度の歳入額は47.9億円で、その内訳は以下の通りです。
① 所得税    15.6兆円(32.5%)
② 法人税         13.3兆円(27.7%)
③ 消費税         10.6兆円(22.1%)
④ 揮発油税       2.2兆円(4.5%)
⑤ 酒税             1.6兆円(3.3%)
⑥ 相続税          1.6兆円(3.3%)
⑦ その他          3.1兆円(6.5%) その他としては、たばこ税、関税、自動車重量税、石油税等が含まれます。

小泉政権の終わり頃に消費税増税論議がありました。上記の消費税10.6兆円は地方消費税を除外した税率4%ですから、単純に4で割ると1%あたり2.6兆円となります。一方、日本の法人税を27.89%税率で13.3兆円であるとするなら、10%は4.76兆円です。だから、消費税で法人税減税をカバーするなら1.83%上げればよいとなるのですが、消費税率を上げると実は歳出も増加するので、2.5%位消費税率を上げて、地方税とあわせて7.5%位にする必要があるのかも知れません。

消費税や付加価値税は、最終消費者が負担する税です。企業は仕入の際に払った消費税は、納付に際し控除することが出来ます。例えば、設備投資をしても、設備購入の際に支払った消費税は仕入控除の対象です。消費物資は税率アップと共に上昇するので、例えば生活保護費も上昇します。その分、税支出が増加する。ところで、消費税率が上がれば、その分、給料は増えるのでしょうか?「消費税は、極力避けるべきである。」という考え方があります。理由は、消費者、即ち国民に負担が行くものであるから、所得税で極力対応すべきであり、所得税であれば公平負担が図れるという考え方です。各個人の所得把握が公平に出来ていないと不公正が生じるのですが、私は税務署はキチンと掴んでおり、ごまかしようがないように思えるのですが。

消費税を議論するなら、一番最初にしなければいけない是正は、消費税益税の解消のはずです。誰に益税が生じているかというと、課税売上割合95%以上の企業です。課税売上割合95%以上の場合は、非課税売上に対応する仕入消費税も全額控除可能となるからです。1000億円の売上企業では、1%で3千万円とかの益税になります。課税事業者の最低売上高を1千万円に引き下げたときに是正すべきだったと思いますが、課税売上割合95%については変更なしで据え置かれてしまいました。

4) 法人税を下げれば誰が得をするの

企業活動が活発となり、日本経済が発展し、国民が豊かになるというのが経団連の考え方と理解します。一方、法人税率を下げた分、雇用の増大や給与の増額にあてるような制度にすべしとの議論を聞いたこともあります。しかし、そんなにうまくは行かないというのが私の意見です。

むしろ理論としては、企業の利益は株主に所属するのであり、会社法だってそのように作られれています。他には、経営者に対する報酬として取締役の利益連動給与の増額が計られると思います。人参と馬との関係は、税率が30%であろうが、40%であろうがほとんど変化がないと思うのです。経団連の提言で気になるのは、「赤字法人の税負担のあり方など、広い負担の方途」なんて言っている部分で、赤字法人に法人税を負担させるなんてとんでもない意見であると思います。税の負担能力がない者に、税を負担させると制度そのものが壊れてしまうと思います。

ところで経団連会長の御手洗氏はキャノン会長です。その前の奥田氏はトヨタ元会長です。ところで、キャノンは2005年12月31日現在で51.12%を外国投資家が株を保有しており、フランクフルトとニューヨーク証券市場に株式上場をしています。トヨタは26.62%が外国投資家による株保有(2006年3月31日現在)で、ロンドンとニューヨーク証券市場上場です。即ち、法人を10%下げたなら、現在日本経済成長の牽引車となっておられる優良企業のある部分は、外国投資家に回ることになります。

それを直ちに悪とは言えないのですが、グローバル経済で動いている現代においては、法人税を下げたからという単純な図式で計れない側面があると言うことです。例えば、タイやインドネシアを2)で例として挙げましたが、法人税率が低いから皆投資をするかと言えば、そんな単純ではないはずです。労働者の人件費や能力、技術者の水準、下請け企業の能力、港湾施設、電力・水・道路といったインフラ等様々な要素を考慮して最適な投資を検討します。そこにおいて法人税率の30%ー40%は大きな差ではないと思うのです。違った言い方をすれば、米国企業は法人税率40%だから衰退するでしょうか?私は、マイクロソフトやグーグルは未だ未だ強いと思います。米国自動車メーカーが日本の自動車メーカーに、どうも負けるかも知れないという状況は税の理由ではなく、他に原因があると思うのです。

例えば、日経ビジネス11月27日号は「電子二等国ニッポン」なんて特集みたいですが、もしそうだとしてそれは法人税率とは異なる話しと思います。もし、言うなら研究開発を怠ったという面があるのかも知れませんが。参考に、法人税は研究開発費の支出に対して支出額の10%が税額より控除されるのです。キャノンの場合は、2005年で2865億円の研究開発費を支出しています。これが全てキャノンの日本法人とは限らないのですが、法人税率30%だからこのような税による研究開発支援の制度も可能なのだろうと思うのです。税による企業支援について次の表を掲げておきます。

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5) 今後に向けて

税とは政府を支えるものである。いかなる政策も税なくして不可能である。税は制度において徴収において公平でなくてはならない。制度的な公平とは、私は多くの国民が納得し、賛成するということであると思う。経団連の役員になっておられる企業の方々は勝ち組の代表である。そのような方々の意見も重要であるが、格差社会の下層に位置している人々あるいはごく普通の生活を送っておられる方々も税については声を大にして自分の主張を繰り広げるのが良いと思うのです。ある時までは、労働組合なるものがもっと強かって経営者に対して声を上げていた時代があった。労働組合が弱くなった分、声を誰かが自動的に集約してくれるなんてことを期待してはならないと思う。

これモトケン弁護士のブログ「体罰容認論がちらほらと」ですが、エントリーの記述やコメントの内容は、その通りと思うのです。権威ある人が言ったからと、それを聞き流していると、大変なことになりかねないと思います。自分自身でもしっかりと考えたいと思います。

ところで経団連って選挙権ないんですよね。法人もない。選挙権は20歳または25歳以上の個人だけです。選挙権のない団体が政府の政策に対して意見を出してよいのかしらと思ってしまいます。御手洗氏個人であれば、問題はないのですが、団体としてとなると個人という主権者を飛び越しているような気がします。

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