来年の税制改正
政府税制調査会は平成19年度税制改正に関する答申を昨日の12月1日に安倍内閣総理大臣へ提出しました。答申そのものはここ(PDF Format)にあります。ニュースは以下です。
日経-証券税制、軽減税率廃止を明記・政府税調答申
読売-企業の税負担軽減、07年度税制改正を答申…政府税調
NHK-政府税調 企業税負担軽減答申(NHKニュースはリンク切れが早いので続きに読むに入れておきます。)
読売新聞とNHKは企業負担軽減と報道しています。いずれにせよ、来年或いは再来年の税に、更には今後の税にも関係してくるので、少し政府税制調査会の答申を見てみます。
1) 減価償却制度の変更
答申の「1.経済活性化に向けた速やかな対応」のなかで、「(1)減価償却制度」については「残存価額(10%)を廃止するとともに、償却率についても国際的に遜色のない水準に設定すべきである。」という文章で強い表現となっています。一方、他の(2)同族会社の留保金課税、(3)エンジェル税制、(4)事業承継関連税制、(5)国際課税、(6)外形標準課税及び(7)政策税制の集中・重点化については、「検討すべきである。検討する必要がある。適切な対応を講ずべきである。見直しが課題となる。引き続き整理合理化を進めることが重要である。」 という様な柔軟性の高い表現であり、経済活性化に向けた速やかな対応という項目なかでは、減価償却制度が来年の税制改正に盛り込まれると予想します。
「償却可能限度額(取得価額の95%)の撤廃」とは、耐用期間10年の固定資産の簿価は10年を経過した時点でゼロになることが許される様に変更することで、逆に、今まで何故許されなかったのかという感じもあります。現行では耐用期間終了時の簿価は10%以上である必要があります。そして、耐用年数終了後も更に減価償却を継続してもよい。但し、5%以下の簿価にするような減価償却をしてはならないという規定です。
なお、この減価償却基準は税額計算に使用する減価償却計算用です。会計上、財務諸表上の減価償却は税額計算の減価償却と違って構わないのです。企業は、自己の事業成績や財政状態を正しく表現すると信じる損益計算書、貸借対照表を作成すべきです。例えば、ある製造設備が設備そのものは8年使用できてもマーケットでは次々と新製品が発売されその製造設備は実質3年しか生産に使用できないと考えれば3年で減価償却をすべきです。もし、会計上の耐用期間が税務上より短ければ会計上の減価償却費が多くなり、企業利益は少なくなります。この結果、企業利益と税務上の所得金額及び納付税額は対応しなくなり、対応しない差額を繰延税金資産として計上することとなります。これが、税効果会計であり、上場企業は税効果会計を適用していないと、会計監査で問題が生じます。従い、減価償却制度の変更は本質としては企業利益には影響を与えないのです。
但し、実体として日本のほとんどの企業は耐用年数終了時に10%の残存価額を持つという減価償却方法を採用しているので、多分税制改正と同時に残存価額なしの減価償却方法に変更すると思います。また、そうしないとこの税制改正の恩恵を受けられなくなります。即ち、減価償却に関して税法は減価償却限度額を規定しており、損金計算をした金額以上には税務上も損金扱いできなくなるからです。
減価償却期間を短くし残存価額をゼロとすれば、減価償却費は大きくなります。しかし、その固定資産の取得から破棄までに至る減価償却費の合計は変わりません。費用合計が変わらないので、結局は、税額も固定資産の保有期間全体を合計すれば同じです。減価償却終了後は減価償却費がなくなるので、課税所得が多くなり、税額も多くなるのです。企業にとっての効果は、前の方の期間の税が安くなり、後の方の期間の税がその分増加することとなり、資金効果、利息効果があることから現在価値・DCFで考えれば有利になると言えます。
それと固定資産の減価償却が関係するのは、法人税だけではありません。所得税のうちで事業所得と不動産所得には当然全く同じことが言えます。だから減価償却制度の変更は、企業に有利と特別に言えるほどのものではないと私は思います。
2) 上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率の廃止
「3.国民生活に関連する税制」では「(1)金融所得課税」のなかの「②上場株式等の配当や譲渡益の軽減税率」において「期限到来とともに廃止し、簡素でわかりやすい制度とすべきである。」と、廃止という言葉を使って書いてあります。
預金利息は15%の所得税と5%の地方税が差し引かれて80%しか受け取れません。上場株式の場合は、受取配当金が7%の所得税と3%の地方税が差し引かれ、売却した場合は売却益に対して7%の所得税と3%の地方税が課税されます。株式の場合は、預金の半分の税しか払わないことになっているのです。
但し、2008年3月31日以降に受け取る配当金は所得税15%+地方税5%の合計20%が差し引かれ、株式の売却益(売却損がある場合は、売却損を控除した純利益)については2008年1月1日から所得税15%+地方税5%の合計20%の税率適用となります。即ち、再来年から預金と投資が同条件となるのです。少し前には、株式売却時の税は、売却価格の1%の所得税と0.3%の有価証券取引税のみという時代があり、嘗ては架空名義の預金や株取引が多く存在しました。しかし、IT時代の現代では米国のように総合課税をすべきと思います。
即ち、超過累進課税の適用で、所得はその原因が何であれ平等に課税するのが原則で公平課税がなされるはずです。公平は税において最も重要です。公平でなければ、バカらしくて税を真面目に納めたいとは思いません。社会を支える金であるとして社会貢献をしている気持ちで納めることができる税を私は望みます。本当は、株式売却益を総合課税で納付できれば20%より税を節約できるのです。何故なら、所有期間5年以上の長期譲渡所得は利益から50万円(短期譲渡所得がない場合)を控除した残額の1/2が総所得金額となるからです。即ち、税率を1/2にしたのと同じです。
しかし、この証券税制は政府税制調査会の提案通りに政府案が作られるかどうか不明です。何故なら、産経-自民税調 証券優遇の延長が大勢 道路特定財源は19年度にこだわらず のような報道もあり、政府案は与党と話し合いの上で作られますから。
一つ断っておきますが、これ全て個人所得税の話しです。法人税は、受取配当金も売却益も所得の計算に入れるので、軽減税はありません。
3) 減税?まさか?
実は、来年(2007年)は変なことが生じる人がでてきます。本年3月の税制改正で定率減税がなくなり、増税となりました。この改正で、住民税は一律10%となり、所得税の税率が従来の所得税と住民税の合計の税率を維持するように調整されました。住民税の特別徴収は6月から翌年の5月までです。本年3月の税制改正で住民税の税率が10%以下であった人は、来年1月から5月までは、その前の年の住民税を払うことから旧税率です。一方、所得税の源泉税は新税率で計算するので、今年より減額となる人がいます。定率減税が廃止されて増税となったはずなのに、来年の1月~5月は徴収される税金が安くなるのです。騙されているみたいですが。
どのような人かというと、課税所得金額が700万円以下位の人なので多くの人です。この水準は、給与のみの収入であれば1千1百万ぐらいでしょうか。例として、給与が1千万円であれば、給与所得控除220万円であり、所得控除を180万円とすると、課税所得は600万円程度となります。この人の場合、本年は毎月所得税38,000円と住民税31,700円が差し引かれていたとすると、改正後は所得税36,100円と住民税41,700円になるのですが、住民税の41,700円の適用は6月からですから、所得税が下がった分の毎月1,900円ほど1月から5月は手取りが多くなります。騙されるような話しです。
NHKニュース 政府税調 企業税負担軽減答申
答申は、企業の国際競争力を高めるために税負担を軽減することが大きな柱で、経済活性化を優先する姿勢を鮮明にしています。具体的には、企業の生産設備などの価値が年々減少する分を損金として課税の対象にしない法人税の「減価償却制度」について、欧米の先進国並みに、これまでより短い期間で全額を損金に算入できるよう求めています。また、法人税の実効税率については、税率を引き下げる方向で今後、検討を進めるとしています。さらに、個人投資家にベンチャー企業への投資を促すための優遇措置について、対象となる投資先の範囲を拡大するなど利用しやすい制度に改めるべきだとしています。このほか、株式や投資信託の売却益などにかかる税率を軽減する措置については、期限を迎える来年度に廃止する方針を示していますが、あわせて投資家が市場から遠ざかるといった株式市場への悪影響が出ないような対策を求めています。一方、消費税率の引き上げについては、政府が来年の秋以降、本格的な議論を行うとしていることを背景に、今、議論すべき緊急の課題でないとして答申には盛り込まれませんでした。1日の答申を踏まえて、与党の税制調査会が今後、具体的な税制改正の内容について検討を進めることになります。
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