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2006年12月 8日 (金)

ホリエモン事件の会計士へ懲役1年6月の求刑

12月5日のことでしたが、ライブドアの監査を行った公認会計士の久野太辰被告(42)と小林元被告(51)の論告求刑公判が、東京地裁(小坂敏幸裁判長)で開かれ、検察側は両被告に懲役1年6月を求刑しました。

共同通信12月5日-2人に懲役1年6月求刑 ライブドア事件の会計士

既に検察による求刑があった宮内被告へは懲役2年6月で、他の3人の熊谷被告、岡本被告、中村被告には懲役1年6月でした。会計士二人との違いは、会計士二人が起訴事実を否認し、無罪を主張している点です。そこで、少し考えてみることとします。

1) 会計士の犯罪

会計士の犯罪は、恐ろしいと思います。会社とは人間が作った法人であり、様々な人々や他の会社と権利・義務を持っています。上場会社の場合は、会社法と証券取引法により財務諸表について公認会計士又は監査法人による監査を受けなければなりません。監査とは何かについては、ライブドアが平成17年9月30日に終了する事業年度の連結財務諸表に関して港陽監査法人より入手した監査報告書の文章を続きを読むに入れておきましたので、これを読んで頂ければ実感をつかめると思います。

貸借対照表、損益計算書、剰余金計算書、キャッシュ・フロー計算書及び附属明細表(本エントリーでは財務諸表と呼びます。)の作成は経営者(即ち取締役)が行います。(監査報告書では、作成責任は経営者にありと言っています。)会計士は監査報告書にあるように、監査を行い、「財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、財政状態並びに経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているものと認める。」と意見表明を行うか、或いは、そのような意見表明が行えないとしてリマークが付いた意見書を提出するか、一切のコメントを避けるか、ケース・バイ・ケースとなります。

財務諸表は経営者が作成することから、良く見せようとデコレーション(粉飾)を行う恐れがある。そこで、独立した会計士が粉飾のない正しい財務諸表であるとのお墨付きを与える。このお墨付きが間違っていたなら何も信じられなくなってしまいます。会計士の犯罪はおそろしいと思います。ホリエモン事件の会計士二人も、ある程度は実状を知りつつ目をつむってしまったところがあるのかも知れません。

2) ライブドアってどんな会社だっけ?

ライブドアは世間一般には、自らを「インターネット関連業務を主業務としながら、これに関連した業務を展開している。」と言っており、多くの人がこのイメージでライブドアを捉えていたと思います。しかし、有価証券報告書や財務諸表から見る限りは、投資会社と言った方が正確なのです。(財務諸表はイメージや言葉だけではない、数字で会社の状態を示す重要な情報源で、独立した第三者からお墨付きを与えられています。)

次の円グラフは、ライブドア有価証券報告書による2005年9月期とその前年の2004年9月期の連結売上高の内訳を示しています。ライブドアがイーファイナンス事業と称している金融サービス業・投資銀行業の売上が50%以上を占めるのです。

Livedoorsales

営業利益を割合で見たのが、次の円グラフです。但し、各部門の内部売上の消去前、配賦不能共通経費賦課前の営業利益です。この数字で有価証券報告書のセグメント情報が作成されているためです。

Livedoorsaprofit

次の円グラフは各部門毎の資産額(流動資産、固定資産、繰延資産の合計)を示しています。イーファイナンス事業の資産額が圧倒的に大きいことが分かります。なお、共通資産として何が含まれるかは不明です。

Livedoorassetdiv

以上よりライブドアの事業の主業務はインターネット関連業務ではなく、証券・ファイナンス関連であったことが分かります。貸借対照表を見てみると現金預金が非常に多く、流動資産も同様に多いのですが、その資金調達として資本金がほとんどで借入金による調達はほとんどありません。2005年9月期末の短期借入金、長期借入金、社債の合計は株主資本のわずか23分の1です。下記にライブドアの貸借対照表(単位:千円)を図示しましたが、非常に特異な会社と思います。

Livedoorbs

3) 会計士の罪

検察はライブドアの決算において本来利益として計上すべきではない自社株売却益を利益として計上したと言っています。自社株売却益の不正があり、損益計算書が正しくなかったとしても、2)の最後の貸借対照表の分析は正しいことになります。何故なら、株主資本のなかで、利益剰余金となるか資本剰余金となるかの違いですから。

しかし、日経の記事によれば、論告で検察側は「報告書の虚偽記載を認識していたのに適正意見を付けた監査証明を行い、多数の投資家にライブドアが著しい成長企業と誤信させた」と指摘。自社株売却益の不正計上の発覚を防ぐため、介在させる投資事業組合の追加を提案するなど「積極的に加担したと述べた。であり、この検察の陳述が正しいのであれば、会計士二人は有罪になるべきと考えます。会計士の反論がどうであったのか知らないのですが、ホリエモン達に騙されたのであれば刑事罰を問うのは酷なのだろうと思うのです。

ホリエモン事件の犯罪にはライブドアが実質的に支配する投資事業組合を利用しての自己株取引が大きなウェイトを占めています。民法上の任意組合はディスクローズする義務がないことから、経営者が悪用すれば何でも出来てしまう気がします。そうなると会計士の監査には限界がありうると思います。でも、正しく企業情報が開示されることは重要であり、企業会計基準委員会より実務対応報告第20号「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」が本年9月8日に公表されました。ここを参照下さい。

4) 株式会社TTGの会計監査は?

12月6日にジャスダックは通信設備工事会社株式会社TTGの上場廃止を発表しました。廃止理由は、平成15年3月期から平成17年3月期までの連続する3決算期間において債務超過の状態であったと言うことす。ちなみに、平成17年3月期は連結純資産額が1,851百万円債務超過であったにもかかわらず、連結純資産額を34百万円としており、しかも昨年5月から今年3月にかけて、これらの書類を添付した有価証券届出書を作成し、第三者割当増資などで計四回、総額で約64億円を集めていたようです。参考日経記事

監査法人は、平成15年3月期から平成17年3月期までの3決算期間が麹町監査法人で平成18年3月期監査法人つばきです。債務超過とは、資産より負債が多く、株主資本はマイナスであった言うことです。株式会社TTGに関しての監査法人の刑事、民事責任はどうなるのでしょう?

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                     独立監査人の監査報告書
                                          平成17年12月25日
株式会社ライブドア
取締役会 御中

                                 港陽監査法人

                      代表社員業務執行社員 公認会計士 久 野 太 辰 ?
                      代表社員業務執行社員 公認会計士 田 中 慎 一 ?

当監査法人は、証券取引法第193条の2の規定に基づく監査証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている株式会社ライブドアの平成16年10月1日から平成17年9月30日までの連結会計年度の連結財務諸表、すなわち、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結剰余金計算書、連結キャッシュ・フロー計算書及び連結附属明細表について監査を行った。この連結財務諸表の作成責任は経営者にあり、当監査法人の責任は独立の立場から連結財務諸表に対する意見を表明することにある。

当監査法人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行った。監査の基準は、当監査法人に連結財務諸表に重要な虚偽の表示がないかどうかの合理的な保証を得ることを求めている。監査は、試査を基礎として行われ、経営者が採用した会計方針及びその適用方法並びに経営者によって行われた見積りの評価も含め全体としての連結財務諸表の表示を検討することを含んでいる。当監査法人は、監査の結果として意見表明のための合理的な基礎を得たと判断している。

当監査法人は、上記の連結財務諸表が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、株式会社ライブドア及び連結子会社の平成17年9月30日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているものと認める。

会社と当監査法人又は関与社員との間には、公認会計士法の規定により記載すべき利害関係はない。
                                               以 上

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