昨日(25日)の日興コーディアルからのプレスリリースは次の3つでした。
・代表執行役等の異動および特別調査委員会の設置について
・社長就任にあたって
・課徴金に係る審判について
日興コーディアルは、金融庁より指摘を受けた2005年3月期の連結決算に関わる利益等は偽りであったことを認め、証券市場の担い手として信頼回復に努めるという内容であります。しかし、日興疑惑の基であるベルシステム24の買収には連結決算の問題のみならず、他にも疑問点が多いと思います。ベルシステム24買収は2005年3月期であり、当時の日興コーデァルグループの代表取締役は本日退任した有村純一でした。株主代表訴訟を起こして取締役の責任(善管注意義務)を問う必要が、ないだろうかとして以下可能な範囲で検討します。
1) プレスリリースを見ると
日興プリンシパル・インベストメンツ(NPI)のベルシステム24に関するプレスリリースは下記です。
a) 2004年7月20日-株式会社ベルシステム24の第三者割当増資引受について
b) 2004年8月5日-株式会社ベルシステム24の株式取得および第三者割当増資払込について
c) 2004年8月6日-株式会社ベルシステム24の株式取得について
d) 2004年9月27日-日興プリンシパル・インベストメンツ株式会社による株式会社ベルシステム24株式の公開買付けの開始について
e) 2004年10月28日-日興プリンシパル・インベストメンツ株式会社による株式会社ベルシステム24株式の公開買付け結果について
ベルシステム24のプレスリリースで特に関係があると思われるものは下記です。
a) 2004年7月20日-BBコール株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ
b) 2004年7月20日-第三者割当による新株式発行並びに親会社、主要株主および筆頭株主の異動に関するお知らせ
c) 2004年7月20日-株式会社ベルシステム24とソフトバンクBB株式会社との包括的業務提携について
d) 2004年7月20日-当社の第三者割当増資についての株式会社CSKによる新株発行差止仮処分の申立に関するお知らせ
e) 2004年7月30日-仮処分申請却下の決定について
f) 2004年8月3日-株式会社CSKによる仮処分の申立てに関するお知らせ
g) 2004年8月4日-抗告棄却の決定について
h) 2004年8月5日-親会社、主要株主および筆頭株主の異動に関するお知らせ
i) 2004年8月5日-仮処分申立て取り下げについて
j) 2004年8月5日-第三者割当増資の払込み完了のお知らせ
k) 2004年8月11日-取締役及び監査役の就退任に関するお知らせ
l) 2004年8月30日-「第23期決算公告」の掲載(注)NPICが株主になる前の2006年5月31日に終了する営業年度の計算書類がここにあります。
m) 2004年9月27日-平成17 年5 月期(第24 期)配当予想の修正に関するお知らせ(注)中間配当をゼロとし、産業活力再生特別措置法に基づく金銭交付による株式交換を実施する予定を述べている。
n) 2004年9 月27 日-公開買付けの賛同に関するお知らせ
o) 2004年10月28日-NPIホールディングス株式会社による当社株式の公開買付けの結果に関するお知らせ
p) 2004年11月26日-株式交換に関するお知らせ
q) 2004年12月15日-株式交換に伴う株券提出のお願い
NPI/NPIHが第三者公募で過半数株主になる前には、CSKが筆頭株主でした。CSKのプレスリリースは次の通りで、2004年7月20日発表の第三者公募に反対していました。
a) 2004年7月20日-株式会社ベルシステム24の第三者割当増資による新株発行差止仮処分の申立てに関するお知らせ
b) 2004年7月30日-株式会社ベルシステム24の第三者割当増資による新株発行差止仮処分の決定に対する当社の方針について
c) 2004年8月2日-株式会社ベルシステム24に対する法的手続きについて
d) 2004年8月4日-株式会社ベルシステム24の第三者割当増資による新株発行差止仮処分申請の却下に対する即時抗告について
e) 2004年8月5日-株式会社ベルシステム24に対する申立て取り下げについて
f) 2004年8月5日-株式会社ベルシステム24の株式譲渡に関するお知らせ(注)1,580,000株@\27,000
g) 2004年8月6日-株式会社ベルシステム24の株式譲渡に関するお知らせ(注)464,000株@\27,000
h) 2004年8月18日-新コールセンター会社設立のお知らせ
最後にBBコールを売却したソフトバンクのプレスリリースを見ると以下でした。
2004年7月20日-ソフトバンクBBとベルシステム24との包括的業務提携について
3) プレスリリースから読みとる株式第三者発行
4社とも同じ7月20日に重大発表を行っています。
これは、ソフトバンクのプレスリリースから逆にたどると、よく解るのですが、BBコール株式(約500億円)をベルシステム24に売却し、貸付債権(約190億円)をベルシステム24に譲渡する。譲渡対価は合計約690億円。更に、ベルシステム24は、テレマーケティングシステム構築投資及び新サービス提供におけるシステム投資をBBコールにおいて行うことが売却の条件であり、この投資額は約590億円である。総合計では、1280億円となります。
ベルシステム24が1280億円の巨額資金を調達する方法が新株の第三者割り当てによるNPI/NPIHからの調達であったのです。そこで、CSKはプレスリリースa)の通り、新株発行差し止め仮処分の申し立てを行いました。当時は商法ですが、特に有利な発行価額の場合は、株主総会における2/3多数決が必要であり、そうではなく授権資本の範囲であれば取締役会で決定が可能でした。東京地裁の判断はCSKの仮処分申請の却下でした。この東京地裁の判断についてのベルシステム24とCSKのプレスリリースは、それぞれe)とb)です。
私は、東京地裁の判断は誤りではと思うのです。その理由は、
i) 発行価額の20,050円は年7月16日の東京証券取引所における株式終値21,780円の7.94%ディスカウントであり、市場価額よりは有利である。「特に」に該当するかどうかであるが。既存株主にチャンスさえ与えず、株式の希釈化を生じ、市場価額より約8%有利というのは、「特に」に該当すると思える。
ii) 発行済株式数 4,898,700株に対して第三者割り当てによる増加株式数 5,200,000株であり、この取締役会決議はベルシステム24のb)であるが、NPIHを引受人として決議されており、取締役会が50%超の支配株主を決定するという逆転の決議が行われている。私には、このような取締役会決議を認めることは株主軽視も甚だしいと思える。
iii) ベルシステム24の事業年度は5月末であり、定時株主総会は3ヶ月以内の8月末頃である。NPIHが株主となる 5,200,000株は、8月に開催する定時株主総会で議決を有する。この部分についてCSKのプレスリリースc)は、「ベルシステムが行った基準日公告は、定款に定める基準日後に新たに新株主となった者のうちNPIだけに議決権行使を認めようというものであり、商法上、違法である。」と述べている。
株式会社は株主総会が最高意志決定機関であり、多数決による運営となる。しかし、東京地裁の判断は、株式会社の私物化を容認することになる。貯蓄と投資が適正に運営されてこそ、安心して暮らせる世界になるのだが、残念ながらこれでは信頼できない投資の世界を裁判所が作り出しているように思える。
4) 第三者発行以後の動き
5,200,000株の増資に対する104,260百万円の払込は8月5日に実施され、NPIHは8月6日に株主となった。CSKプレスリリースe)のように、期限も短い中CSKはギブアップせざるを得なくなったのだと思います。但し、申し立て取り下げは、CSKプレスリリースf)とg)のように、一株27,000円でCSK及びCSK子会社が保有する2,044,000株をNPIHが購入することでした。総額55,188百万円。この結果、CSKは、プレスリリースh)のとおり、電話のコールセンター業務をベルシステム24ではなく、新規に会社を設立して新会社に委託することにしました。
その後、NPIプレスリリースd)のとおり、NPIは9月27日にベルシステム24のTOBを発表し、10月27日にTOBにより2,633,027株を取得しました。NPIプレスリリースe)によれば、総額73,850百万円であった。更に、TOBに応じなかった、2%強の株主に対しては、ベルシステム24のプレスリリースp)のとおり一株28,000円で産業活力再生特別措置法に基づく金銭交付による株式交換を実施し、強制的に株主とNPIHの金銭と株式の交換を実現しました。
4) 果たしてこのディールは何であったか
NPIHが支出した金銭は合計2400億円です。この2400億円の支出は何時決定したのか。多分、7月20日に、一連の動きを開始したときには、決定していたと見るべきと思います。日興/NPIは、CSKの反対に逢うことを予測していたと思います。その結果として、市場価額より高く株式をCSKから購入することも、その結果として2/3を超える議決権を取得することも。
全ては、日興/NPIの読み通りであったのだろうと思うのですが、最後に全株を取得したのは、何故か?通常であれば、少数株主から横槍を入れられることなく、思い通りに会社を運営するためです。そして、NPIHの会社内容がよく分かっていませんが、ベルシステム24のみに対する投資であれば、短期間に誰かにベルシステム24を転売して利益を得たかったのかもしれません。そうであるとするなら、NPIHの企業活動は一時的であるとして連結子会社から除外したのは意味があるかも知れない。但し、利益計上はトンデモナイと思います。
しかし、それで納得が行くかというと、トンデモナイです。12月20日のエントリー日興疑惑の通り、ベルシステム24から自ら払い込んだ資本金と資本剰余金以上の金銭をNPIHは戻したわけで、100%子会社だからこんなこともできたはずです。でも、金銭を取り戻したのは、ソフトバンクのプレスリリースにある「新サービス提供における関連システム構築投資額:約590億円」を実行しなかったからです。或いは、初めから実行する気がなかったのか。
気にかかるのは、CSKプレスリリースb)にある「1,000億円を超える増資を行い、ベルシステムの資金を含めて約1,280億円をソフトバンクBB株式会社に流出させるという、ベルシステムに何のプラスもないスキーム」と述べている点です。590億円の投資は実行されなかったことから、最終的にはソフトバンクに資金が回ったのは690億円でした。果たして、690億円の価値がある会社であったのかと言うことですが、私はないと思います。何故なら、電話のコールセンター業務であれば、CSKがプレスリリースh)のとおり、簡単に設立可能と思えるからです。青色発光ダイオードの技術のような、人が簡単にまねできないものとは思えないからです。
2006年4月にソフトバンクは1.75兆円のボーだフォンの買収を行いました。1.75兆円は、LBOという手法を使い、1.28兆円は借入金ですが、ソフトバンクにとっては、悪い子会社は売却し、事業拡大の資金を作る方向であったことは間違いないはずです。それからすると、日興はトンデモナイ高値を掴んでしまったのかも知れません。しかし、そうだとして被害者は日興コーディアルの株主です。株主は、今回の粉飾により損害を受けたはずです。代表訴訟は十分考えられると思うのです。
5) 蛇足
前回は、会計士、監査法人の問題点を述べたのですが、今回は弁護士、弁護士事務所の問題点を述べておきます。3)の東京地裁の判断は、弁護士が書く書類やアピールと密接に関係があるはずです。即ち、CSK側の弁護士事務所も相当有名な事務所であったようですが、正義を通せず負けています。私は、関連書類を読んではいませんが、無能弁護士だったのでしょうか?逆に、ベルシステム24側は誰であったのか知らないのですが、所詮このディールは7月20日に決まったことではなく、相当前から関係者で詰めていたはずで、弁護士も加わっていたはずです。NPIも相談に加わっていたと言うか、むしろ主役であったかも知れません。そうなると、NPIの監査役に森・濱田松本法律事務所という自ら「弁護士約220名とスタッフ約300名を擁する日本有数の大規模総合法律事務所」と言っている事務所の弁護士です。この事務所が関わっているかも知れません。いずれにせよ、弁護士とは依頼主の為に全力を尽くす役割です。戦う相手が正しくとも、引き受けたからには、依頼主のために働く人達です。会計士による監査は、お金の交渉をする相手である経営者のために働くのではなく、株主のために働かなければならず、苦労が多いと言えます。
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