2006年10月16日 (月)

サラ金はノーベル賞に値する

バングラデシュのユヌスさんとユヌスさんが運営するグラミン銀行が2006年のノーベル平和賞を受賞することとなりました。バングラデシュで初のノーベル賞受賞です。

先ずは、関連の新聞記事を以下に並べます。(NY Times, Washington Post, LA Timesは登録をしていないと開かないかも知れません。)

日経 : ノーベル平和賞に経済学者ユヌス氏とグラミン銀行

朝日 : ノーベル平和賞、ムハマド・ユヌス氏に 貧困解消に尽力

産経 : ユヌス氏にノーベル平和賞 バングラデシュの経済学者

毎日 : <ノーベル平和賞>バングラデシュのグラミン銀行と総裁に

読売 : ノーベル平和賞、ユヌス氏とグラミン銀行…貧困撲滅で

東京 : ノーベル平和賞 救貧銀行と創設者に

バングラデシュThe New Nation(英語)Nation celebrates first Nobel Prize: Settle issues amicably, Yunus urges parties

インドThe Hindu(英語)Yunus says Bangladesh's new found unity must extend to political arena

パキスタンDawn(英語)Banker to the poor gets Peace Nobel

ロイター(英語)WITNESS-Bangladeshi Nobel Prize surprise confounds prediction

米Washington Post - Micro-Credit Pioneer Wins Peace Prize

米New York Times - Peace Prize to Pioneer of Loans to Poor No Bank Would Touch

米Los Angels Times - Peace Prize to Yunus, Grameen Bank for Micro Loans

「おめでとうございます。」と申し上げます。でも、ロイターの記事が書いているように、実は予想外だったんですね。例えば、この毎日新聞の記事は別の人を書いています。

バングラデシュは、その国土が14万平方キロメートルの広さで、日本の38%位、北海道の1.8倍位の面積ですが人口が1億4千万人程度です。南が海ですが、東の一部がミャンマーと国境を接している以外は、全てインドと国境を接しています。例えば、旧日本軍の作戦の西の端インパールはバングラデシュの東でミャンマーより西のインドです。

国土は、ミャンマーと接している地域以外はほとんどが平らで、ガンジス川やブラマプトラ川といった大河が海に流れ込む国です。だから、上流(主としてインド)に降った雨で洪水が発生する国です。

貧しい国であり、貧困生活を送っている人が多い国です。世銀の資料によれば、1日2ドル以下で生活している人が82.8%です。アジアの最貧国で、例えば同じ様な国を世界で探すとアフリカのナイジェリアです。ナイジェリアは人口1億4千万人で90.8%が1日2ドル以下の生活。私も、ダッカに行ったことがありますが、交差点毎に乞食集団がいて。それも小さな女の子が多いんです。道路の中央分離帯の茂みにお母さんか乞食集団の現場責任者かがいてといった感じです。

ユヌスさんが偉いと思うのは、お金を借りることが出来ない人の為のマイクロ・クレジットというお金を借りる仕組みを作ったことです。制度ではなく仕組みなのです。即ち、単に貧しい人にお金を恵むだけだったらお金が続く限りは可能です。昔から、それはあったわけで、一方、生活保護みたいな制度もバングラデシュ政府にそんな財政能力はないので期待できない。貧困から抜け出すには、資金が必要である。かけ声だけでは、貧困をなくすことは出来ない。

グラミン銀行のウェブはここにあります。貸付金等の残高は、本年8月末現在で319億タカ(552億円)で、8月中の貸付実行額は48億タカ(83億円)で、返済回収高は47億タカ(81億円)です。グラミン銀行の説明がウェブに色々ありますが、面白いんです。その中のIs Grameen Bank Different?で次のようなことを言っています。

「普通の銀行とは逆の銀行です。お金を借りることは人としての権利である。だから、借りれない人に貸します。借りた人の能力が返済原資です。グラミン銀行の所有者は金持ち(ほとんどは男)ではなく、貧しい女性です。」

総資産446億タカ(772億円)のうちの10%が資本であり、この資本の94%が借入人で、一方、負債についても203億タカ(351億円)が借入人による預金で、115億タカ(199億円)が借入人以外による預金です。そして、この借入人の97%が女性と言うわけです。サラ金生協みたいな感じです。貧困層の女性の地位は低い。貧困から抜け出すには貧困層の最下層の人を助けなくてはならないという発想であると同時にその中で貸付により最貧状態から抜け出すのを手助けしましょうと言うわけです。

普通に考えると机上の空論で、すぐに倒産しそうですが、貸倒率は1.15%と言っています。教育ローンや住宅ローンもあるのですが、乞食ローンと言うのもあり、乞食にも一定額を無利子貸し付けするのです。世銀、アジア開発銀行、その他の援助機関もCGAP(The Consultative Group to Assist the Poor -ウェブはここ)という組織を作りマイクロ・ファイナンスを途上国に広めようとしています。日本は、国際協力銀行が入っています。

2000年9月に国連で採択されたミレニアム開発目標というのがあるのですが、その8つの主要目標の1番目(極度の貧困と飢餓の撲滅)と3番目(ジェンダー平等推進と女性の地位向上)に取り組んでいるノーベル賞に値する仕事だと思います。

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2006年9月18日 (月)

看護師の仕事

朝日新聞の9月16日のBeeに日野原重明氏がコラムで麻酔看護師のことを書いておられました。

日野原氏のコラム記事

麻酔看護師が活躍できるのは米国のことで、日本では残念ながら、8月27日の私のエントリー「堀病院」事件(その2)で紹介した様に、保健師助産師看護師法が看護師を傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者と規定していることから、看護師が麻酔をしたら直ちに警察に捕まることとなる。

日野原氏は、日本でも米国に負けないくらい看護学が進歩し、多くの看護大学に大学院研究科が設けられ、現在は86の修士課程と37の博士課程が開設されていると書いておられる。現在医師が行っている医療行為の一部を専門看護師に開放する場合、看護大学生、大学院生が受けられ、必要とする教程を増やさねばならないが、医学部や他大学と協力する等すれば出来るはずと私などは思ってしまう。

現在の医療は、チームで提供されるサービスである。一人の優秀な医師が、全てを取り仕切って、その指揮下で行われるとは誰も思っていないはずと考えるのであるが。

高齢化社会にどう対応していくのか、対応策を考えねばならない。一方では、医療崩壊が叫ばれ、現状では医療は将来の安心より、将来の不安の方が大きいように感じてしまう。訪問医療もこれからの重要な課題と思う。でも、訪問看護師は保健師助産師看護師法に従わねばならない。

保健師助産師看護師法を改正し、看護師が現在の医療のニーズに合うよう働ける様にし、ニーズに合うような知識・経験が得られるようにすることは、重要なことと思う。保健師助産師看護師法が看護師の活躍の機会を閉ざし、結局そのしわ寄せが国民に行く法律ではないか、この法は誰のために存在するのかと思ってしまう。国民がよりよい医療を受けられるような改正が必要であると思う。

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2006年8月27日 (日)

「堀病院」事件(その2)

昨日は産婦人科というエントリーで「堀病院」事件に関連して考えるべきこととして産科医療の現状を私なりに記載しましたが、本日もこの事件で言われている無資格診療について考えてみることとします。

堀健一院長他が25日に記者会見し、「患者や妊婦に不安を与え、深くおわびしたい」と陳謝したと報道されています。無資格診療についての言及がどうであったのか、知っていませんが、無資格診療とは、何であるのかについてこのエントリーでは考えてみたいと思います。

(1)保健師助産師看護師法

保健師助産師看護師法の違反として、神奈川県警は家宅捜索を行ったのですから、先ずは法律を見ておく必要があります。その第1条に法律の目的が規定されており、この意味は私にも十分理解できます。

第1条  この法律は、保健師、助産師及び看護師の資質を向上し、もつて医療及び公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする。

問題となっているのは、次の第3条と第5条です。

第3条  この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。

第5条  この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

実は、解ったような解らないような文章なのです。但し、今回の議論については、第37条も読んでおいた方がよいと思うのです。

第37条  保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。

(2)厚生労働省医政局看護課長通知

ところで、看護師は妊婦の世話が全く出来ないのか、ある程度は出来るのか法律を読んで、解らないので、どうするか。昨日、私は法律の解釈は司法(法廷)でないと最終的には決められないと申しました。その通りなのですが、第3条、第5条を読むと厚生労働大臣の免許を受けてとあり、例えば、第14条第1項に次のような条文もあります。

第14条①  保健師、助産師若しくは看護師が第9条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。

厚生労働省は助産師、看護師等の免許を与え、取り消すことができる権限を持っており、この業務を行うためには、第3条及び第5条の助産師及び看護師の業務の範囲についても厚生労働省としての統一見解を持つこととなります。持っていなければ、保健師助産師看護師法に関する厚生労働省としての仕事が出来ないことにもなるからです。

昨日のエントリーの(4)の緑部分の冒頭の平成14 年11 月14 日付けの文書とは、厚生労働省内部の文書です。何を言っているかというと、次の通りです。

表記について、別添1の鹿児島県保健福祉部長からの照会に対し、別添2のとおり、回答したので御了知の上、貴管下の病院、診療所への周知徹底及び指導方をよろしくお願いしたい。

-------------------------------------------------------------------------

別添1

下記の行為については、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)の第3条で規定する助産であり、助産師または医師以外の者が行ってはならないと解するが貴職の意見をお伺いしたい。

(1) 産婦に対して、内診を行うことにより、子宮口の開大、児頭の回旋等を確認すること並びに分娩進行の状況把握及び正常範囲からの逸脱の有無を判断すること。

(2) 産婦に対して、会陰保護等の胎児の娩出の介助を行うこと。

(3) 胎児の娩出後に、胎盤等の胎児付属物の娩出を介助すること。

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別添2

貴見のとおりと解する。

長くなってしまってお詫びします。(これらの文書は日本産婦人科医会ウェブhttp://www.jaog.or.jp/JAPANESE/jigyo/TAISAKU/kome0410.htmから取りました。)

助産師、看護師の第3条、第5条の解釈については、法廷で争われてないし、法廷で争うとしても単純に線引きをすることが出来ないから、やっかいです。当事者間で問題が発生しないなら、法廷に持ち込む必要が無いと言えます。うまく機能しているなら、それで皆Happyであり、わざわざ問題を起こす必要もないからです。

(3)日本産婦人科医会の要望(見解)

昨日も引用した日本産婦人科医会の文書(日本産婦人科医会2005年9月5日づけ産科における看護師等の業務について)が産婦人医会の意見であり、2004年9月13日にも同様な医政局看護課長通知があり、日本産婦人科医会は2004年10月8日に要望書(看護課長通知「産婦に対する看護師業務について」に対する要望書)を提出しています。

(4)私のコメント

以上を読んで頂いた人には、「看護師の仕事でこれが無資格診療だ。」と決めることの困難さをお解り頂けたと思います。

最も重要なことは、第1条の「医療及び公衆衛生の普及向上を図ること」であると私は考えます。そして、我々が安心して医療を受けられる制度を維持、発展させていくことであると私は考えます。助産師・看護師の仕事の内容も、時代と共に変化すると思っております。医療機器の進歩もあるでしょうが、医師不足、助産師不足の解決の方法として人の養成も必要ですが、医師・助産師・看護師が良い連係を保ったチームワークでコメディカルとして仕事をしていただくことも重要なことと思います。

「厚生労働省に任せておけば」とか「私には何もできない」或いは「私の問題ではない」というのは、危険な気がするのです。又、マスコミに惑わされることにも気をつけた方がよいと思うのです。「本質を突かないさも解ったように発言するTVのコメンテーター」と言った人もおります。

安心できる医療を求めていきたいと思います。法は、国民のためにある。法の制定は国会である。そして法のなかには国民の生活や活動に直接関係するものも多い。法を解釈し、法の正しい運用を行うのは、最終的には国民であると私は考えます。主権在民の下に、良い医療、安心出来る医療を求めていきたいと思います。

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2006年8月26日 (土)

産婦人科

横浜市の堀病院における保健師助産師看護師法違反容疑で同病院の家宅捜索を24日に神奈川県警が行ったと報道されています。

第一報は各社とも家宅捜査の事実と警察情報を中心とした容疑の内容についてである。新聞、TV等のメディアによる報道は、事件発生時において問題を深く掘り下げることが難しい面はある。しかし、問題の本質を見誤ってはならない。そこで、今回は産科医療の問題点を私なりに突っ込んで見ます。

(1)医師、医療従事者不足と分娩施設の減少

多分一言で言えば、不足という言葉につきるのだろう。日本産科婦人科学会が行った全国周産期医療データベース(平成17年12月1日現在の状況に関するアンケート調査)によれば、日本全国の分娩施設数は病院数が1273、有床診療所数が1783の合計3056で、その他に自施設で分娩を取り扱う助産所が263。合計3319である。現実にはその後も減少しているとみこまれることから、現在は3000程度と調査結果では予想しています。

分娩施設は最近減少傾向にあり、最近の増減数は、平成17年9月5日厚生労働省審議会の日本産婦人科医会による資料によれば以下の表の通りです。

  平成14年度 平成15年度 平成16年度 合計 合計
  病院 診療所 病院 診療所 病院 診療所 病院 診療所
新規開設 5 23 4 10 6 25 15 58 73
分娩とりやめ 13 48 25 76 38 71 76 195 271
減少数 8 25 21 66 32 46 61 137 198

全国周産期医療データベースは、分娩に関与する常勤医師数は、大学の医員を常勤医に含めて合計を行った結果で7873名で、従来考えられていたよりもはるかに少ない人数であると述べています。

同データベースによれば、有床診療所の常勤医数は1名の施設が1214(68.7%)、2名の施設が452(25.6%)、3名以上の施設が99(5.6%)であります。常勤医1名の施設で24時間対応が必要な分娩の取り扱いを行うことは激務であり、中止する施設も増加しつつあると考えられるとのことです。ある医師の話ですが、開業産婦人科医は高齢化が一番進んでいるらしいです。60代が多いと。

(2)産科医師の激務

産科医師の激務は、(1)の不足により激務となっていると言えるし、激務であるから産科医師のなり手がいない。逆に廃業される方がおられると、どちらが鶏で卵と言う関係ではあるが、悪循環に陥っているのが現状と私は理解します。(1)の不足を止めるためには、産科医師希望者が増えるようにしなければならない。それと大事なことは、医師を育てるには、長い年月を要するし、その為の費用もかかることです。不足したから、XXから緊急輸入とは行かないのです。国家試験に合格した後にも経験を積んで一人前の医師になっていくのです。

どの程度の、激務かは私自身が産科医ではないので、私が説明するより、本年4月25日の衆議院厚生労働委員会における横浜市立大学附属市民総合医療センター母子医療センター産科現場責任者の奥田美加先生の発言(これ)を読んでいただいた方がわかると思います。3Kとは今や産科医のためにあると言った感じです。なお、この発言を国会図書館の議事録からも入手できますが、 厚生労働委員会議事録17号の7~8ページです。

いつ生まれてくるか分からないし、陣痛から分娩までの時間も様々である。周産期(分娩周辺期)は決してリスクがゼロとは限らない。以下の表は、他国の数字も記載してあるが、前掲の表と同じく平成17年9月5日厚生労働省審議会の日本産婦人科医会による資料に週産期統計として掲載されていたものです。24時間体制の分娩管理があるから、母子共に安心できる、父も頼れるという状態が得られていると思います。

国名 妊婦死亡率
出生 10万対
新生児死亡率
出生 千対
周産期死亡率
出生 千対
総医療費/GDP
の世界順位
日本 2003 6.1 1.7 3.6  
1999 6.1 1.8 4.0  
1998 7.1 2.0 4.1 17位
1997 6.5 1.9 4.2  
アメリカ 1999   4.7   1位
1998 7.1   5.1  
フランス 1999   2.9   5位
1998 10.1      
1997   2.7 7.1  
スウェーデン 1998 7.9 2.3 5.2  

日本が、どの数字においてもトップ。すごいです。その陰には、これを支えてこられた医師、助産師、看護師、その他多くの医療関係者がおられるわけで、過酷な勤務をしいて折角築いた良い状態を壊したくない。人手不足だからと中止できない産科医の仕事を理解しなければならない。以下は、日本産婦人科医会2005年9月5日づけ産科における看護師等の業務についての中にあった文章です。

新卒医師は毎年約8.000 人、このうち産婦人科に進む者は300 人で、そのうち女性医師が半を占め、時間が不規則な産科を希望しない。従って加重労働と医療訴訟の多い産科(周産期医療)に進む者は僅かに80 人程度である。

(3)医療過誤、医療訴訟

「医療過誤に関する訴訟の3割以上が産婦人科関連であることが、多大な心理的、経済的負担を生み、このことが新たに産科を志望する医師の減少を招いている。」と記載しているのが、厚生労働省、総務省及び文部科学省の課室長級の人達と日本産科婦人科学会、日本病院会他が加わっての小児科・産科における医療資源の集約化・重点化に関するワーキンググループ取りまとめ(平成17年)です。

更には、刑事事件となることがある。本年3月10日に福島県立大野病院の産科医の加藤医師が、業務上過失致死及び医師法違反の罪に問われ、起訴された。この事件で女性が亡くなったのですが、この亡くなった女性の帝王切開手術に際し、胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行せず、クーパーを用いて漫然と胎盤の癒着部分を剥離した過失により、大量出血により失血死させたというのが起訴事実です。

加藤医師を業務上過失致死(刑法)に問えるのか、起訴をすることが正しいのかと言う問題です。「医師でもない警察や検察が最もらしい過失行為を挙げて犯罪と言えるのか?結果論を勝手に言ってるんではないのか?」と私などは思うのです。医療中の事故と医療過誤の違いは、簡単とは思えないし、又、過誤があったからそれが刑法上の犯罪とできるのはよっぽどの場合と考えます。

医師の方は皆さん不当な起訴だと言っておられます。ここに7月21日の第一回公判前整理手続き時に弁護団が出したプレスリリースがあります。人によっては、弁護団のプレスリリースのみ読んでも片方だけの意見だから役に立たないと思われるかも知れませんが、私は、このプレスリリースの内容は、事実を正確に述べていると思っています。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会のこの事件についての発表文もここにおいておきます。

警察的発想からすれば、「被害者(死亡者)がいれば、加害者がいるはずだ。正義の警察は犯人(加害者)を挙げねば。」となるのかも知れない。しかし、医療とは常にある意味では死と隣り合わせでいるわけで、最善を尽くしても残念ながら亡くなることがある。様々なことが重なって診断が困難なこともある。幾つかの治療方法が考えられることもある。一旦方針を決めても、それを刻々と変化する状態に応じて、変えねばならない。大変である。

最近の事故に、ふじみ野市プール事件とクレーン船送電線損傷事件があった。この2つの事件は、結果が想定されていた。(プール事件では針金で蓋を結んで使うなんてとんでもない。クレーン船は、送電線にぶつかることが判っていながら、クレーンを上げて進んだ。)業務上過失致死(クレーン船の場合は、死亡者がいないが)となっても納得がいく。結果が予想されるにも拘わらず、対策があるにも拘わらず、それを怠った。医療でも患者取り違えで死亡すれば業務上過失致死である。誰が見ても、重大な過失があると判断されれば業務上過失致死であるが、選択肢の多い医療の現場で、警察・検察が介入することは慎重な判断で行う必要があると私は思う。

(4)横浜市の堀病院における保健師助産師看護師法違反容疑について

直接的なコメントは差し控えますが、看護師による内診については、日本産婦人科医会2005年9月5日づけ産科における看護師等の業務についての中で次のように書かれています。

医政看発第1114001 号;平成14 年11 月14 日)にて厚生労働省医政局看護課長より鹿児島県保健福祉部長宛てに回答が送られた。①産婦に対して、内診を行うことにより、子宮口の開大、児頭の回旋等を確認すること並びに分娩進行の状況把握及び正常範囲からの逸脱の有無を判断すること。・・・・・以上の行為を看護師はしてはならない。

これまで、厚労省医政局長通知により禁止されていた看護師による静脈注射が、同じく医政局長通知により平成14 年、医師の指示の下に看護師も実施できる診療の補助行為の範疇として取り扱うこととなった例もある。内診は静脈注射よりもはるかに侵襲が少ないと考える。従って、分娩進行に伴い異常の発生する可能性を常にはらんでいる産科医療において、少ない人的資源を有効に活用し安全で快適な経過を得るためには医師、助産師、看護師の協調が不可欠であり、この見地からも分娩第Ⅰ期の経過観察に看護師の関与を認め、医師の管理下での内診を診療補助行為とみなすことを希望する。

即ち、通達において厚労省が、看護師はしてはならないとしており、明確な保健師助産師看護師法違反とまでは言えないのかも知れない。法に違反しているかどうかは、政府の判断ではなく司法の判断である。それと、昨年9月に日本産婦人科医会は看護師による検診を要望していたのだ。

看護師による検診を要望したのは、医師不足・助産師不足を医師・助産師・看護師のコメディカルで対応せざるを得ない現状からだとしている。助産師不足について同文書では以下のように述べています。

分娩(入院時の内診から分娩経過診察、分娩介助を含む)は必ず医師・助産師が担当するとすれば、その医療機関の分娩数に係らず、3交代制で実施する場合は延べ21 人/週であり、外来における妊婦検診(産科計測など)を担当する助産師・休暇(週休2 日所制)を含めて1 医療機関につき少なくとも約6~8 人以上の助産師が必要となる。しかも、助産師が2 人ペアで勤務することとすればさらに増加する。仮に、1 人で勤務するとしても、全国分娩取り扱い施設は6,473 施設で、必要な助産師数は51,784 人のところ、現在届け出されている産科施設就業助産師数は23,819 人で27,965 人不足となる。

これを読んでいると、堀院長は、県警の調べに対して開き直っていると簡単に批判して正しいのだろうかと疑問を持ってしまう。妊婦がいて出産になれば産科医として助けざるを得ない。医師の仕事は、自らがセールス活動を行えない仕事である。一方、医療行為を拒否することは出来ない。そんな仕事である。

堀病院の神奈川県警の捜査について、モトケン弁護士のブログに書かれた産科医のコメントをご本人及び関係者からの承諾を得ていないのですが、医師のコメントとして続きを読むの部分に勝手に掲載させて貰います。

産科、小児科が日本で今一番医療崩壊が進んでいると言われている。医療崩壊が生じれば、国民が困るのである。そして崩壊をくい止める手段を講じても、その効果が現れるのは相当の年月を経過してからである。この現実を正しく認識する必要がある。税金を使ってでも医療崩壊をくい止めることも検討すべきかも知れない。医療崩壊が生じたとき、そのしわ寄せは一番弱い者、貧しい者に来る。政治家が自分の票のために小さい政府と言うとき程、恐ろしいときはないのかも知れない。

又、関係するブログのリンクを以下においておきます。

元検弁護士のつぶやき・無資格の助産行為医療崩壊に対する制度論的対策について(その2)医療崩壊に対する制度論的対策について

ある産婦人科医のひとりごと・神奈川県警による堀病院強制捜索に関して

東京日和@元勤務医の日々・警察とマスコミが産科医療を滅ぼす]助産師不足

勤務医 開業つれづれ日記・国の産科 絶滅政策

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