ストックオプションの課税に関して10月24日最高裁が過少申告加算税賦課決定の税務署の処分を取り消す判決がありました。(判決文はここにあります。)この判決に関して、上告人の代理人であった鳥飼総合法律事務所がプレス・リリースを行っていますが、その文書はここにあります。
この事件は、それ程単純でない面を持っているので、以下に書いてみたいと思います。(単純な事件などないかも知れませんが)
(1) ストックオプションとは
東京証券取引所の用語説明がここにあります。例をあげると、会社が取締役に対して5-10年先に自社株を150で購入するオプションを与えます。(オプション付与時の株価は100とします。)でもオプションだから、この取締役は購入する義務はありません。だから、もし権利行使時期に株価が150以上であれば、購入するでしょう。もし、200で売却できれば50の利益となります。結果、ストックオプションを与えられた取締役は懸命に働いて業績を上げ、自社株の株価を上げようとする。株価が高くなれば、一般投資家もHappy、会社も資金調達が有利になりHappy、当然その取締役もHappyで皆Happyと言うわけです。
(2) ストックオプションを行使して株式を得た人の所得税
(1)の例で、権利行使をして取得した株価が170であったとします。これを150払って取得(オプション取得時は無償。株受領時に150)したのだから時価170との差20の利益を得ました。この20は、取締役の業務対価であると考えるのが妥当です。そこで、給与所得なのです。200で売却したら、株式譲渡所得が30得られたのであり、上場株を証券会社経由で売却したのなら30に対して所得税7%+地方税3%の税金を払います。
でもニュースには、一時所得という言葉が出てくるのは何故かです。ストックオプションは、日本では平成9年(1995年)6月施行の商法改正で可能となり、それまでは日本にストックオプションがなかったからなのです。(厳密には、平成7年の特定新規事業実施円滑化臨時措置法の改正により特定の株式未公開会社でストックオプションが可能となった。)でも株式の有利発行は、それ以前から存在していたのであり、株式の有利発行による差額の利益は一時所得と税務署は考えていたし、今でも役員、従業員のその業務・勤務・労働の対価として取得する場合ではない株式有利発行の利益は多くの場合一時所得です。(参考:所得税基本通達23~35共-6)(要は、取得の原因が何によるかで、各種所得のどれに該当するかです。)
給与所得と一時所得は所得税法では次のように規定されています。なお、一時所得は一時の臨時的性格であるとして課税所得金額を求める際に2分の1にするので、税額としても約2分の1となります。(厳密には一時所得は50万円を控除した残額を2分の1。給与所得は金額が大きい場合でも5%は給与所得控除が適用される。)
第28条① 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
第34条① 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
(3) この事件の人達の所得
平成9年以前に日本に制度はなかったが、外国にはあった。この事件のケースは米マイクロソフトやデル、コンパック、シスコシステムズの日本法人元役員ら7人であり、役員就任を受けた会社ではなく、その親会社のストックオプションを得たのである。そして、東京国税局直税部長が監修、所得税課長編集で(財)大蔵財務協会が発行した「回答事例による所得税質疑応答集」において平成6年版まで「ストックオプションが給与等に代えて付与されたと認められるとき以外は一時所得として課税される。」と書いてあったからややこしいのである。”以外は”との表現であるから、この文章も相当読みにくいのであるが。
最終決着はこの平成17年1月25日の最高裁判決(要旨)で、やはり給与所得であるとされた。
(4) 10月24日最高裁判決
10月24日の判決は税務署の過少申告加算税賦課処分を取り消したものです。過少申告加算税賦課処分とは、期限までに申告と納税があったが、正規の税額より小さかった場合に、税務署は追加の税納付(及び修正申告)を求めると共に追加税額に過少申告加算税を賦課したと言うわけです。
これまた、ややこしいのは問題となっている所得は平成8年、9年、10年と11年の4年分でいずれの年もそれぞれの申告期限である翌年の3月15日までに申告納付がなされた。これに対し、税務署が平成12年3月10日に給与所得であるとして増額更正をした。11年分は12年3月15日に一時所得として所得税の申告を行い、税務署は13年3月12日に増額更正と過少申告加算税賦課決定をしたのです。それまでも、税務署と納税者との間でやりとりがあったのかも知れませんが、平成13年に訴訟となったのです。
裁判の結果は、(3)の最高裁判決の通り給与所得税ですが、今回の裁判で確定したのは過少申告加算税賦課は行き過ぎであるから、過少申告加算税賦課を取り消すと言うことです。
ところで、いくら位の金額の話しをしているかというと、日経は7人で総額約2億6000万円と報道していることから、10%が過少申告加算税の税率であるとすると増額更正の税額が約26億円であり、7人で税総額は50億円を超えると言うことです。所得の金額に換算すると7人全員を合計すると100億円を超えると言うことでしょうか?15%が税率であるとしても、34億円位の税額になるから所得金額はやはり100億円程度です。最も、朝日新聞は「7人の過少申告加算税額は、約2億1000万円(2年分)~34万円(1年分)だった。」と書いているので、人によって差はあります。ちなみに、対象となった期間の所得金額はあるデータから見るとA氏3.6億円、B氏16.3億円、C氏2億円、D氏6.6億円、E氏1.9億円となるので、所得金額は普通の人から見れば相当の高額です。ちなみに2000年(平成12年)8月23日当時の報道ではマイクロソフト日本のみで150人、70億円の申告漏れという報道でした。
(5) 企業にとってのストックオプションの経理・税務
従来企業側は、ストックオプションを与えた場合に、自己株式をストックオプション実行に備えて取得し、これを取得価額で自己株式として帳簿に載せ、実行された際に取得価額と実行価額の差を、損失であれば自己株式処分差損、プラスであれば自己株式処分差益として処理していました。貸借対照表、損益計算書の扱いが平成9年以降でも何度か変更となり、それにより法人税法上の益金・損金の扱いも変わっているので本年5月の会社法施行前については省略します。
企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」が企業会計基準委員会より公表されており会社法施行日(2006年5月1日)以後適用となります。その結果、ストックオプションは譲渡不可能ではあるが一種のデリバティブであり、適正額を人件費認識することになりました。例えば、ストックオプション付与時の株価が100でこれを150で購入できるオプションは、150以上に高くなる可能性がある以上はその価値はゼロではなく、何らかの正当な価値を持っていると考え、この価値相当分を人件費とし、人件費/新株予約権という仕訳で、人件費の認識をすべきと言う考え方です。なお、一時に人件費として認識するのではなく、付与日から権利確定日(行使可能期間の初日)まで、期間案分します。
ストックオプションの価値をどのように評価するのかという大問題があります。ウェブを見ると色々なところが売り込みをしています。なお、企業会計基準第8号が制定されるに至った背景には、2005年1月のIFRS(国際会計基準審議会-Internatioal Financial Reporting Standard)基準2号-Share Based PaymentやFASB(米国財務会計基準審議会-Financial Accounting Standard Boad)基準123号-Share-Based Payment(2004年改正)がそれぞれ2005年1月1日、2006年1月1日以後に開始する会計期間から適用されることがあり、国際的な会計基準の統一ということがあります。
企業税務では、2006年5月1日以前(余り前だと違いますが)迄は、自己株式処分差損益は資本積立金(法人税の用語であり、会計用語では資本剰余金に相当します。)を増減させるだけであったので、税への影響はありませんでした。2006年5月1日以後は、法人税法が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」としていることから、企業会計基準第8号をフォローするのだと私は思います。しかし、ストックオプションの価値評価を故意に高くすれば、人件費が多くなり税額計算の元となる企業所得を下げ、税を減らすことが可能となるから、ストックオプションの価値評価については何か基準が出来るのではと思います。
(6) 報道
私はNHK TVのニュースで報道していたのを見ました。でも、誤解を与える内容と感じました。(私でも混乱を感じましたぐらいで、予備知識のない多くの方が見られたら誤解があるだろうと。)
新聞の方が、未だ正確です。
それと報道の姿勢に「悪の税務署に裁判で勝った。」という雰囲気を感じてしまったのです。「不当な過少申告加算税は否定された。」と言うのが今回の裁判です。税はその課税基準が公平であると共に税徴収も公平でなければなりません。税法の適正な執行と徴収がないとすれば、馬鹿馬鹿しくて税なんて誰も払おうとしないはずです。税の公平という基準に立って、税は考えるべきと思いました。
参考に、各社の報道を以下に並べます。なお、NHKはリンク先が既に消滅しているため、続きを読むに文章を入れておきます。
日経-ストックオプション、加算税賦課は違法・最高裁判決
朝日-ストックオプション「加算税は違法」 最高裁判決
毎日-ストックオプション訴訟:過少申告加算税は不当 最高裁2審破棄、国税の一部敗訴確定
読売-自社株購入権、最高裁が加算税課税認めず…国税が敗訴
産経-過少申告加算税取り消し 最高裁 ストックオプション訴訟
日テレ-ストックオプション上告審 国税側が敗訴
TV朝日-ストックオプションで得た利益は何税?最高裁判決
NHK-続きを読むにあります。
TVは、限られた時間内での報道だから衝撃的な内容になりがちなのでしょうが、やはり製作側には限られた時間でも誤解を与えない正確な報道をするように望みたいものです。(バラエティーは得意でも真実の報道はTV局には難しいのでしょうか?大淀病院事件もそうでしたが)
浅学ながら、他の産科医が書き込みなさらないのでXXXさんに。
まず子癇発作というのは血管が締まって脳に血が行かなくなる状態です。当然脳以外の所でも血管が締まっていますから胎盤や腎臓、肝臓でも血流が極端に落ちます。従って一時的とはいえ脳全体が酸欠になっている上、さらに腎不全と肝不全がこれまた一時的とはいえ起こっているとお考えください。そうなれば脳浮腫(脳がむくむ)も起きますし、胎児の状態も悪くなります。けいれんが起きていれば呼吸状態も悪いでしょうから、胎児の状態はさらに悪いでしょう。母体がそのまま死んでしまうことだってあります。前にも書きましたがこれくらい重症だと大体1割死亡。ここまでで重症の子癇発作がどんな状態かイメージできたでしょうか?
で、医者の間では知られた事実ですが、脳梗塞の後血流が再開すると、そこで脳出血が起こることもあります。今回はこれではないかと推定しているわけです。
さらにさらに子癇発作というのは妊娠中毒症の妊婦に起きやすいわけですが、比較的軽症中毒症でも血が固まりやすくなって、ちょっとしたきっかけで体内に血栓が起きてしまいます。ましてや子癇発作時は、全身に微少な血栓が飛び散ったあげく、かえって止血機構が破綻して出血が止まらなくなるDICという状態も起きやすくなります。こうなったらもう多臓器不全から死亡へまっしぐらです。妊娠中毒症や子癇発作がどんなに危険なものか、おわかりいただけたでしょうか。私自身も遭遇経験はないので、ちょっと怖さを大げさに書いているかもしれませんが、間違っていたらどなたか修正してください。
というわけで、意識の戻らない重症の子癇発作患者を受け入れるというのは、並ではない覚悟が必要です。胎児も死ぬかもしれず、母体も死ぬかもしれない。しかも死ねばバッシングが待っている。おまけに前に書いたように、検察は「万全の体制でやれないところで危険な症例を引き受けるべきではない」と福島県立大野病院の事件で医師を逮捕したのですから、NICU,ICU,新生児専門小児科医、麻酔医、産科医数人ずつと、脳出血が明らかになった時点でさらに少なくとも脳外科医2名を直ちに用意できなければ受け入れ不能と回答するしかありません。野戦病院じゃあるまいし、「ベッドがなくても受け入れろ」という言葉の非現実性がお解りでしょう。
最後に外科医が脳をいじるのは全然無理。どこを切れば脳にダメージを極力与えずに血腫を取り除けるかなんて、脳外科医以外にはできない判断。それにこんな修羅場の帝王切開を専門医でもない外科医がやったら大変ですよ。「やったこともない手術をやった!そのため患者が死んだのだ!逮捕だ!」となるのが分かり切っています。
(3) 脳内出血
脳内出血を子癇と誤診したから、妊婦が死亡したなんて、そんな報道されているほど単純ではないことを多くの方は理解しておられると思いますが、この妊婦の脳内出血とはどのような状態であったのかm3という医師のブログ・掲示板に転載可として書かれていたというので、下記に掲げます。
今日、患者さんの死亡原因の診断を教えてもらいました。右脳混合型基底核出血で、手術としては脳室ドレナージが行われたようですが、かなり大きな出血だったため、回復され なかったそうです。
脳内出血の原因は、年齢から考えて、aneurysm(動脈瘤)があったんだろうか。32歳といえば、aneurysm破裂の好発年齢ですよね。年齢から考えるとAVM(動静脈奇形)は、否定的で すし、予後は比較的いいはずですから。aneurysmは分娩時におこる頻度はまれだったな。そういえば妊娠20週まではAVMが多くって、30週から40週まではaneurysmが多いという文献もあったっけ。PUBMEDでももう一度調べてみます。
不幸にも亡くなられた方の既往のepisodeに何かなかったのかなと思いました。()は私の注です。
大淀病院でこの患者の脳内出血に対処可能であったかに付いては、「元検弁護士のつぶやき」の中で、転載可として脳外科医(留学中)さんが書かれていますので、下記に掲載します。
脳室体外ドレナージだけであったのならば、大淀病院で可能です。
ただし、臨月の妊婦でなければ。
決断してから、準備、手術、回路の設置終了までは、急げば30分程度の処置ですが、この場合片方だけでなく、両側脳室をドレナージした方がベターなので、さらに15分ほど追加、さらに出血で脳室がシフトしていて一度で穿刺できない可能性なども考えると、処置のために「最低」1時間は予測しなければなりません。
そしてドレナージの最中に脳圧の急激な変化が、胎児の心拍数低下などの危機的状況を導く可能性なども考えれば、この処置は手術室で帝王切開と同時に行うべきです。
麻酔科も、NICUもない病院で、このような危険な処置は行うべきではありません。
さらに、いつ搬送先が決まるかもわからない状況です。
もし、CTで出血がわかったとしても、「母子の管理が十分に出来る施設へ一刻も早く搬送して、搬送先の手術室で処置を行ってください」というのが、正しい判断だと確信します。
また、視床から被殻を巻き込む大型の血腫で、かつ脳室穿破を伴っているタイプの脳内出血であれば、CTを撮れば見逃すことはありませんが、たとえ手術を行ったとしても予後は不良です。
出血の原因としては、高血圧性のものが第一に考えられます。若年者なので、脳動静脈奇形も鑑別しなければなりません。動脈瘤破裂の好発年齢は50代で、部位的にも考えにくいと思います。ただし、血腫で何が何だかわからなくなっていると思います。
いつかは起こりえる、そして起こるべくして起きた事故ですが、学ぶことはとても多いと思います。
問題点は、たくさん見えてきました。
少なくとも、このブログをご覧になられている方には、この産婦人科医を責めることは、何も生み出さないということを認識していただけるのではないかと思います。
そしてこれから生まれる命と母になる女性のためにも、今後どのような体制を整えていかなければならないかを考える必要があります。
それが、亡くなられた方と、残されたご家族に報いる、唯一の方法であると思います。
(追記)
たまたま見つけた文章です。
脳室ドレナージは要するに脳圧が上がらないように、水抜きをするということだから、それで 患者の家族が満足できるレベルの「救命ができた」とは言えない。てか、ふつうの人は救命=ふつうに生活できると思いこんでいるが、あくまでも救命=寝たきりであろうがなんだろうが「生きている」状態のことだ。